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モバイルバッテリーの開発者が突き詰めてたどり着いた「電気のバケツ」とその未来とは

前編では “電気のバケツ”として誕生した、e-blockの特徴とデザインへのこだわりについてご紹介しました。

後編となる今回は、開発の舞台裏に迫ります。

震災を通じて感じた「水は運べるのに電気は運ぶことができない」ことへの危機感

e-blockが誕生するきっかけになったのは、1995年の阪神淡路大震災に遡ります。当時、実際に被災した社員の間で、「水は運べるのに電気は運ぶことができない。電気を運ぶバケツが必要ではないのか?」という声が挙がりました。
2011年の東日本大震災でも、避難所でボランティア活動を行っていた社員の間から「電気のバケツはやっぱり必要。誰かがやらなければ」という志が高まり、今からおよそ11年前にこの構想が立ち上がったのです。

e-blockの構想を語る上で外すことができないのが、2006年に当時の三洋電機が提唱した「eneloop universe(エネループ ユニバース)」。エネループは聞いたことがある方も多いのでは?

そもそも電池には2つ種類があり、簡単に言うと使い切りタイプの「一次電池」と充電して繰り返し使えるものが「二次電池」。
2005年に三洋電機が発売したニッケル・水素蓄電池「eneloop」は、二次電池。それまで主流であったアルカリマンガン乾電池などの一次電池に代わる“21世紀の新電池”として、登場しました。“循環型クリーンエネルギー社会”の実現を目指した考え方です。

そのコンセプトは、2007年度のグッドデザイン賞大賞(内閣総理大臣賞)を受賞するなど大きな脚光を浴びたものの、2011年に三洋電機がパナソニックの完全子会社となったのを機に、2012年3月をもって日本国内における「SANYO」商標が公式終了。
以降、eneloopのラインナップは徐々に整理され、全製品の販売が終了。現在では一部の製品のみが「Panasonic」ブランドの商品として継承・販売されています。

なぜこの話をしたかというと、e-blockの起案と技術的支援をしたエナジーシステム事業部 システム機器BU 商品企画部の遠矢正一は、三洋電機時代のエネループユニバース推進の仕掛け人でもあったのです。
e-blockとエネループユニバースとの相違点を次のように説明しました。

「社会変革が激しいスピードで進んでいる昨今のモノづくりの場では、一から発明していくのでは間に合いません。そこでエネループユニバースのブランドのアイデンティティーとして掲げたのは、今あるものの上手な組み合わせで、新たな機能や効果を生み出し、社会貢献をしていくことでした。

三洋時代では、結果として充電式のカイロやモバイルバッテリーなど数多くが商品化されましたが、家電寄りの小さなものしかできませんでした。
それに対しe-blockは土台となった事業部の違いもあり、住宅設備や業務用途のオフィス商品が中心とした社会インフラに近いところを市場として狙っているのが大きな違いですね」

前述の通り三洋電機時代のエネループユニバース推進の仕掛け人である遠矢。実はとんでもない技術者なのです。

携帯の充電がなくなるとどうしよう!と不安になりますが、その不安を取り除いてくれる携帯電話用のモバイルバッテリー。持っている人も多いのでは?旅行や出張時はマストアイテムですよね・・・。
そんな携帯電話用のモバイルバッテリーや、充電式ハンディークリーナーの開発・製品化をはじめ、初代リチウムイオン電池パック用充電器など、国内初と名がつく「持ち運べるバッテリー」の製品開発に携わってきた人物、それが遠矢なのです!

他にも電動アシスト自転車の電池パックに世界で初めてリチウムイオン電池を搭載、米国自動車メーカー向けにハイブリッドカー電池システムの開発、WPC(ワイアレスパワーコンソーシアム)設立にも参与し、Qi(非接触充電)規格策定の推進にも関わるなど、長年にわたり充電技術の世界で多くの実績を残してきました。

そんな遠矢が総合電機メーカーであるパナソニックに加わり、時間はかかったが最終的には事業化の賛同を得ることができ、e-blockは結実に至ったのです。

「e-blockの特許件数は、記者発表時点で合計64件。
新商品でそれほどまでに多くの特許を発表できる製品は少ないと思います。したがって、他社が同じような電池パックを製品化しようとすると、とてつもなく難しいのですが、大企業であるパナソニックならではの知財力の強みですね」(遠矢)

e-blockが描く夢、その先の世界とは?

さまざまな紆余曲折を経て、2021年にようやく日の目を見たとも言えるe-block。長きにわたり、創電・充電の世界を歩んできた遠矢ですが、これまでの歩みを改めて振り返り、次のように熱く語ります。

「大事にしてきたのは、例えば頻発する災害など社会現象から、自分が何ができるかを考える視点。そしてそこから考えたことを具体化する能力。つまり“モノづくり”の力が必要です。

確かに、パナソニックにはその力や体制が十分に整っている会社だと思います。でもそれ以上に大事なのは、考えてやりたいと思ったことを諦めない執念。諦めたら終わりですから。
私の経験の集大成はe-blockが広く世の中に浸透し、安心安全な社会づくりのお役に立てること。モノをつくる力で社会を少し変化させていきたいです。」(遠矢)

遠矢の言葉どおり、e-blockが描いている世界はまだまだ第一歩を踏み出した段階。その志が目指す世界はまだまだ遠い先にあります。
その1つが電力ピークカット用代替電源

「各家庭で電力ピークの時間帯でe-blockを少しずつ使ってもらうと、何万という台数が集まればかなりの電力量になります。
e-blockを多くの家庭に使用してもらえれば電力事情改善のツールになり得ます。日本は災害が多い国ですが、“充電式ニッポン”の事例として、海外からも注目、手本になることができるのではないでしょうか。
一企業の取り組みに留まらず、国レベルとしても考えられるお話かもしれません。それができる仕掛けが、すでにe-blockには盛り込まれています。」(遠矢)

デザイナーの笹田も2008年からeneloopのデザインを探求し続け、いまはe-blockの未来、そして未来の電気の在り方も深く考えています。

「今や社会インフラの1つとして確立されているインターネット網は既にワイヤレスになっています。
e-blockもそれと同じように考えると、送電網が不要で、電気を移動させることを可能にしたワイヤレス化の商品とも言えると思います」(笹田)

ネーミングが示すとおり、e-blockはブロックのように形を変えたり、組み合わせを自在に変えることも可能です。

「もともとはアシスト自転車用のバッテリーをベースにしていろんなところで使ってもらえるようにと考えていたのですが、e-blockによって、例えば机の配線ができない大きなオフィスでも配線を気にせずフリーアドレス化が実現できます。今後、超高齢化社会に向けて免許不要のモビリティにも搭載されれば、普及がもっと進んでいくと思います。

もっと多くの人にe-blockを知ってもらい、使っていただきたいです。まずは電源に困った時にどこにでも手が届くところに電源がある世界を目指したいと思いますが、将来的にはソーラーなどの再生可能エネルギーを蓄えるものとして、地球環境にも人にも優しい商品として広げていきたいです」(笹田)

今後はオフィス向けを核としながらも、他分野へも展開していく意向と意気込みを語ってくれました。

先んじた商品も、どこかで世の中とチューニングが合う。だからモノづくりは楽しい。

e-blockは電気のリサイクルや、リユース、無電化地域へのドネーションといった可能性を持った商品。ところが、世の中にない商品を従来システムに単に導入する場合には無理が多いもの。

「ガラケーの時代に日本で初めてモバイルバッテリーを作りましたが、すぐには売れませんでした。2007年にiPhoneが発売されてから、皆さんご存知の通り爆発的に売れました。
それと同じように、少し先んじた商品であっても、いつか世の中とチューニングが合うもの。e-blockもそうなると信じています。重要なのは、e-blockを前提に新しい世の中をどう創造するかだと思います」(遠矢)

と、充電技術の世界に長年身を置いてきた遠矢ならではの言葉で、e-blockの未来を前向きに話してくれました。

e-blockをはじめ、これまでにも数知れないさまざまな驚きと利便性をもたらした新技術や画期的な製品を世の中に送り出してきたパナソニック。
総合電機メーカーで働くことのいちばんの醍醐味は、「モノづくりを通して社会とつながる喜びや、やりがいを感じられることにある」と言います。それぞれ次のように語ってくれました。

「頭の中で想像していたアイディアを、図面にしたり仕様に落とし込んだりする作業を経て、それが金型となり、製品化されて、実際に消費者がそれを手にして使われていく。要するに自分が考えたアイディアが最終的に社会とつながっていくプロセスはものすごくうれしいものなのです。
パナソニックは、品質保証や製造計画、量産、販売といったインフラや体制がしっかりと整っているプロの世界。ここで、皆さんがやってみたいことに全集中して、果たしてどんなイノベーションを生み出せるか、私と是非勝負してみませんか‥?!」(遠矢)

「自分が欲しいものを絵に描いて、それが立体になっていって実際に動いていくというのは、純粋に感動します。そして、何と言っても自分が頭の中で考えていたことが社会に出るというのがうれしいですね。

商品にするには一人の力では実現できないので、協力者を巻き込まなければなりません。その為には会議や資料に時間を使うよりも、実際目に見える形で試作品を素早く作る方が圧倒的に商品化までが早くなります。企画の立ち上げから最終的にお客様に使って頂くまで、モノを作るという作業や過程自体がメーカーとしての醍醐味で感動的な体験です。

e-blockに関しても、こうして商品化されたこと自体が感謝の気持ちですよね。パナソニックは外から見るとスーツを着た社員が多く堅めの会社のイメージがあるかもしれませんが、モノづくりが好きな人にとっては自由な環境で仕事ができると思います。」(笹田)

今はまだ「e-block」を初めて見た方が多いかと思いますが、だんだんと様々な場所に納入が進んできています。

フリーアドレス化されたオフィス、リモートワークにも使用できるカフェ、災害時のためにe-blockを納入した自治体、コンビニの店先展示の照明用や店先看板用の電源など、私たちの想像以上にe-blockは広がっています。

常により良い未来を考え、そのアイディアを形にする楽しさ。
その形にした商品でさらなる未来を考え続けると、先んじた商品もいつか世の中とチューニングが合うことがある。
開発するすべての商品が、変わり続ける社会とフィットするとは限らないからこそ、その瞬間を想像すると、モノづくりの面白さと奥深さ、探求心を持ち続ける意味を感じますね。

長年開発、デザインを突き詰め続けてきた二人の言葉からは、技術だけじゃなく多く学ぶことがある。「温故知新の精神」とはいえ、ただ新しいものを追求し続けるだけでも、過去にとらわれるだけでもない。
考えてやりたいと思ったことを諦めない執念は、今の私たちには心に刺さりますね。

変わり続ける今の時代に、次に何を生み出し、世の中に提案していくのか。パナソニックだからこその技術・開発力にこれからもこうご期待ください。


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