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ビル照明設備の経年劣化によりトラブル増加!~被害を抑えるポイントと予防策~

こんにちは!ウラナレ編集部です。
今日の記事は、電気工事士さんはもちろん、ビルの管理に携わる方も必見の内容になっています!👀


車も家電も、何十年と使っているとガタがきて調子が悪くなりますよね。

実は、住宅やビル向けのコンセントやスイッチ、照明機器などにも「寿命」があるのをご存じでしょうか?
その期間はおよそ10年で、エアコンや洗濯機、テレビや冷蔵庫とそれほど変わらないんです。

中でもここ数年でトラブルの問い合わせが多いものがあるそう。それは「フル2線式リモコン」というビル用の照明スイッチです。

「フル2線式リモコン」って?

「フル2線式リモコン」を導入すれば、事務所の配置変えやテナントの入れ替わりで、フロアのレイアウトが変わっても照明の配線工事がいりません。

専用の設定器を使って設定をすると、あるスイッチは窓側の照明を点灯、別のスイッチは営業部の照明を全点灯…など、運用にあわせて変更できる便利なスイッチです。

この「フル2線式リモコン」は、1986年の発売から累計で37万台納入し、今でも新しいビルに採用され続けています。

しかしこれにも寿命があり「スイッチの反応が鈍い」「一部の照明が点灯しない」「照明がまったく点灯しない」などの事例が発生しているそうです。フロアのほんの一部なら問題も小さいですが、フロアやビル全体に影響が及ぶと大ごとになります。

今回は、電気工事系Youtuberとして現場で役立つ知識や技術を解説する動画チャンネル「つっちーの電気工事チャンネル」を運営する「つっちー」さんをゲストにお迎え!

現場の生の声も伺いながら、大きなトラブルを未然に防ぐための、リニューアルについてお話します。


ゲスト:電気工事系Youtuber つっちー さん

第一種・二種電気工事士、第三種電気主任技術者、第一級電気施工管理技師を取得。
学校や工場、病院など数々の現場に携わり工事歴13年のベテラン。
Youtube(https://www.youtube.com/@denkikoujich)では、学校では教えてくれない現場で役立つ知識や技術をはじめ、現場でともに作業する躯体や内装屋さんなどとの付き合い方など実践的な講座を配信している。

1日2件相当発生している「フル2線」の経年劣化によるトラブル

まずトラブルの問い合わせが増えているという件について、フル2線式リモコンを担当するパナソニックの東海林 優介に聞いてみました。

電材&くらしエネルギー事業部 マーケティングセンター 東海林 優介

東海林:2022年4月から11月までの8ヶ月間で7,200件の問い合わせがありました。すべてが故障に関する件ではありませんが、感覚的に寿命に関する内容は10%というほどだったので、その数720件になります。つまり1日に2件の故障に関する連絡をいただいています。しかもこれは増加傾向にあると感じています。

フル2線式リモコンは、ブレーカーなどが収められている分電盤の中にある「伝送ユニット」という装置と壁のスイッチが通信を行い、伝送ユニットにつながっている「T/U」や「リモコンリレー」を経由して照明の点灯・消灯を行います。

心臓部の伝送ユニットの中にはコンピュータが入っているため、パソコンと同様に経年劣化を免れません。

10年前のパソコンを使っている人はあまりいないかもしれませんが、ビルの照明用スイッチ設備は10年どころかそれ以上使われていることが多々あるというのです。

さらに東海林はこう続けます。

東海林:ビルで使われているのがフル2線式リモコンなのか?何年前に施工されたのか?を判断するのは難しいかもしれません。パナソニックとしては危機感を持っているので、Webページなどでその判断方法などをお知らせしています。
ただ施工業者のみなさんにはこれらの情報が届いても、実際にビルの保守管理をされている方には伝わりづらく、電気のプロが少ないので判断が難しいという問題もあります。
ただひとつ言えることは“照明関係の装置は、ビルの竣工から同じだけ年月が過ぎている”ということです。

https://www2.panasonic.biz/jp/densetsu/bs/lighting_control/full2/renewal/pdf/renewal01.pdf

このようにフル2線式リモコンの経年劣化により心臓部の「伝送ユニット」内部のコンピュータが故障し、照明が点灯しない・点灯まで時間がかかるなどの問い合わせ件数が増えているというわけです。

その一方現場で工事を担当するつっちーさんは、故障例なんて聞いたことがないと言います。

つっちーさん:え?故障?故障の話は一切耳に入ってきません。
施工から10年もするとたいてい担当者が変わっています。
すでに定年などで退職してしまっているケースもあるからかと思います。何年もフル2線式リモコンの新規施工をしてきましたが、担当した現場で故障したというのは聞いたことがありません。

このようにフル2線式リモコンの寿命やトラブルに対する認識が、メーカーと現場で大きく異なっているというのが問題のひとつにあるようです。

実際のトラブルと復旧までの事例

では実際にフル2線の設備が故障した場合はどうなるのでしょうか?

簡単に事例を挙げると、小さなところではこのような症状があるそう。

☑ 壁のスイッチの反応が悪く、すぐに照明をON・OFFできない
☑ 照明の一部、もしくはある区画の照明が点灯しない

しかしトラブル現場にも何度か出向いたという東海林によれば、少し困った事例もあるといいます。

東海林:とある庁舎の事例です。フル2線式リモコンとタイマーと連動させて、朝は自動的に照明を点灯させ、庁舎の業務が終わるころに自動で消灯するようにしていました。
しかし経年劣化で動作しなくなったため、自動で点灯や消灯ができなくなるだけでなく、壁のスイッチからも操作できなくなりました。そこで管理担当者が早朝に登庁して、すべての照明機器を手動で点灯させ、業務が終わったころに手動で消灯する毎日が1ヶ月も続きました。
なぜなら庁舎だったため、大掛かりな修繕となり、契約が完了するまで修理ができなかったのです。

さらにこんな困った事例もあったそうです。

東海林:心臓部の伝送ユニットが故障してしまい全館の照明が点灯できなくなりました。その施設では1つのスイッチで区画にある複数の照明を点灯し、場所によっては明るさも変えていたのです。
しかし心臓部に記憶されている区画や個々の照明の明るさの情報は失われ、設定のバックアップや控えがなかったのです。こうなると心臓部の伝送ユニットをすぐに交換しても、元の状態に復旧するまでに時間がかかります。
なぜなら照明が点灯せず業務が止まっているテナント様の元に行っては、どのスイッチでどの照明が、どのぐらいの明るさで点灯していたのかをヒアリングして、それをひとつずつ設定し直さなければならないのです。

このように「故障してから直す」という対応では、テナント様の業務を止めてしまったり、余計な手間がかかる事態になりかねないのです。

パナソニックでは8年経過したらフル2線の点検をおすすめしているのですが、力が及ばずなかなか認知されていないというのが現状です。

もし点検で怪しい部分があれば、計画的に予算を計上していただき、いつ壊れてもおかしくない20年が経過する前に、段階的に機器更新をしていただきたいということです。

「忍び寄る寿命」に施工業者だけでは対応できないビル管理体制

現場経験が豊富なつっちーさんの話によると、以前にフル2線式リモコンを施工した建物が分かったとしても、経年劣化による注意喚起をお知らせするのが難しいと言います。

つっちーさん:私たちは新規の敷設工事は行いますが、その後はビル管理会社に渡ります。こうなるとビル管理会社からの依頼がなければ、点検に伺うこともできません。
またビル管理会社が必ずしも新規施工した業者に依頼があるとも限りません。新規施工した会社にメンテナンスも依頼することは少ないんです。

メンテナンスのために設定の控えを残さないのかについても聞いてみたところ、つっちーさんはこう続けます。

つっちーさん:先にお話した通り施工業者のほとんどは“伝送ユニットが経年劣化する”という認識がないと思います。また、客先から提出を求められることもないため提出しない現場が多いと思います。

東海林:トラブル現場をいくつも見てきましたが、控えが残っていた施設はありませんでした。1986年の発売から37万台を納入してきたフル2線式リモコンですが、控えが残っているのは稀かと思います。
装置が故障する前なら、設定を設定器に読み込み、新しい装置にコピーすることができます。ですから故障する前にぜひ点検をしていただきたいのです。

もし完全に故障する前の「伝送ユニット」の交換だけであれば、工事時間は1~2時間だと言います。完全に故障してしまうと伝送ユニット内の設定データが読み出せなくなるので、ヒアリングに多くの時間を裂かれ、日単位の工事になってしまいます。

また、機器の点検には大きな壁が立ちはだかります。
それは「故障していない設備の点検には予算がつきづらい」という点です。

つっちーさんが言う通り施設担当者やビル管理会社からの依頼がなければ、施工会社も動けません。

パナソニックとしても装置を納めた会社までは把握できますが、その先までは完全に把握できないのが現状です。つまり故障のリスクコントロールをできるのは、施設担当者やビル管理会社にあるということです。

このように経年劣化が怪しまれるフル2線式リモコンを見つけるのは難しい現状ですが、まずは施設担当者やビル管理会社に危機感を持っていただき、「かもしれない」をチェックし、施工会社と両輪体制での検査・保全が必要になってきます。

復旧をできるだけ早く安全にさせるための工夫

家電や車と同様で経年劣化して、いつかは故障する照明設備だけに、万が一に備えて点検が必要です。

まずビルの竣工日から8年以上が経過している場合は、点検や交換費用を予算に組み込む、リニューアル計画を立てることをおすすめします。20年経過する前に段階的にリプレースしていけば予算も通りやすいかもしれません。

現時点ですでに20年以上経過している場合は、早急な対応が必要です。

装置が故障してからでは、照明とスイッチ、明るさの設定を簡単には復旧できません。
もし設定の控えがない場合は、できる範囲で設定を情報として残しておくのがいいでしょう。これさえあれば、万が一装置が完全に故障してしまっても素早く復旧ができます。

一方、新規にフル2線式リモコンを施工する場合は、設定を紙に残して盤の中に保管するようにして、設備費として設定器も計上して、設定器そのものを盤の中に入れておくなどの対策も有効です。

☑ 竣工から8年以上経過→検査・交換の予算組み、設定の控えを作成
☑ 竣工から20年以上経過→直ちに検査・交換の予算確保
☑ 新規施工→施設担当者やビル管理会社への危機感の説明、設定器や設定資料を盤に残しておく等

何よりの課題は、パナソニックとしては経年劣化の危機感を感じながら、施設担当者やビル管理会社、そして施工会社では故障例がないので危機感を感じにくいという、すれ違いを解消することです。

つっちーさんは、経年劣化するという事実を知り、次のように述べていました。

つっちーさん:規模が小さい場合は、テナント様などにヒアリングすれば復旧にも手間がかかりません。しかし大規模な場合は、設定の控えを残して置く大切さを知りました。また施設担当者やビル管理会社様のご協力と施設に対するご理解をいただき、両者一体となって設備の安心と安全を守っていく必要があると感じました。

工事完了までは施工会社、以降のメンテナンスは施設担当者やビル管理会社とはっきり分けてしまうのではなく、両者で協力しながらフル2線式リモコンのリニューアルを進めていただくことがポイントです!