普及の阻害となるハードルを超えろ~100年後につながるクリーンエネルギービジネス~
こんにちは、ウラナレ編集部です。
梅雨を目前にして太陽が少し隠れ気味ですが、梅雨が過ぎれば夏!
日照時間も長くなり、太陽光発電にはぴったりの季節がやってきます。
さて今日は前回ご紹介した広島PPAサービスの後編です。
前回は、地球環境に配慮した小規模な太陽光発電を普及させるためには電力会社自身の考え方を変えていく必要があり、スマートエネルギー営業部の西川弘記主任技師がその働きかけをしてきたことを説明しました。
しかし、整えねばならない環境はそれだけではありませんでした。
それは、ソーラーカーポートの法律的な位置付けです。
これぞ、「ウラガワ」な話をご紹介します。
始まりは多治見市のソーラーカーポートから
ここでみなさんに質問です。太陽光パネルを搭載したカーポートは建築物でしょうか。
家屋や事務所ビルなどの建築物に太陽光パネルを乗せるのは一般的ですが、カーポートの上に太陽光パネルを乗せるケースはこれまでになかったのです。
太陽光パネルを搭載したカーポートは電気工作物なのか建築物なのか?
実は、これまでは法的解釈が曖昧だったのです。
建築物ならばその下に車を駐車できますが、電気工作物となれば、野立ての太陽光発電所のように下には何も置けません。
この問題が顕在化したのは今から3年ほど前のこと。
2019年10月に岐阜県多治見市の太陽光発電販売企業、エネファントがスタートした「働こCAR」事業。
多治見市の人口流出に歯止めをかけるべく、多治見市の企業に就職した新卒には低価格で電気自動車の日産リーフをレンタルするというサービスを始めました。この事業に協賛する地元企業には、太陽光パネルを搭載したEV充電機能付きカーポートが無償で貸与されというものです。
この事業にも、当社は太陽光発電システムと充電システムの納入などの後方支援をしています。
エネファントさんのnoteはこちら
この時点では太陽光パネル搭載カーポートの位置付けは曖昧でしたが、このままではいずれ問題が起こる可能性があると考え、西川は2021年春、当時行政改革担当だった河野大臣に規制改革の要望書を提出し、晴れて6月末に国土交通省から「ソーラーカーポートは建築物」とのお墨付きを得ることに成功。
また、建築確認申請も簡易化してもらい、設置工事の迅速化も図ることができました。
これを受けて、2021年12月には同じ多治見市で、エネファントはトヨタの超小型電気自動車「C+pod」を使用したカーシェアリングサービスをスタート。
同サービスの最大の特徴は、JR貨物のコンテナを使用した移動可能な完全自立型カーポートを備えることです。コンテナの屋根には太陽光パネルを搭載し、蓄電池も備えているため、災害時には電気を必要としている場所に移動し、太陽光で発電した電気の提供が可能となります。
ソーラーカーポートがPPAモデルとして収益性が見込まれれば、将来性のあるビジネスと踏んで大規模に展開する企業も現れてくるかもしれません。その時、資産価値のあるのとないのとでは、参入する企業の数は変わってくるでしょう。
設置工事に電工魂を見た
広島のケースでは、ガレージの構造体のそのものにもパナソニックらしい工夫が凝らされています。
まずは、雨対策。
一般的な太陽光発電の架台は、コストや施工の無駄を省くため、枠組みに太陽光パネルが乗っているだけで隙間だらけ。そのため、雨がボタボタと下に滴り落ちます。
しかし、カーポートは下に電気自動車を保管するのでしっかりとした防水処理が必要。また一般的なカーポートの雨どいのような排水機構も必要です。
そこで今回、雨が滴り落ちない背面カバーと排水機能をレールに一体化した仕組みを開発しました。これによりルーフの強度が増すとともに、背面カバーをレールに差し込むだけと簡単なため、施工の迅速さも図れています。
さらに、ここからがもっともパナソニックらしい点。
設置工事もできるだけ簡易に・・と現場目線も忘れません。
設置工事を簡易にするため今回、太陽光パネルの「裏留め工法」を開発しました。
「裏留め工法」は、ルーフの下から太陽光パネルを架台に固定する方法で、今回が初めての試み。
というのも、一般的に太陽光パネルを設置する場合、パネルの上からビスを打って架台や屋根に固定します。一般住宅の場合は屋根上なので上留めしか方法がないのですが、カーポートの場合はルーフ下に空間があるので、この工法を使わない手はありません。
また、実は高さが2メートル以上で作業する場合、足場等を組み立てて作業床を設置することが労働安全衛生規則によって義務付けられています。
足場代のコストはかかるし、足場の組み上げ・解体の時間も必要に。
裏留め工法ができるようになることで足場の設置が必要なくなり、その分のコスト削減と工期短縮が可能・・・屋根の上に乗る高所作業もないので安全性も向上・・・!
今後この工法が活かせる場で広がっていくといいですね。
西川のいう電工魂とは、1960年代高度成長期の日本において、家庭の電化が急速に進むなか、わたしたちパナソニック・エレクトリックワークス社の前進である松下電工は電気配線工事の安全性と省力化、迅速化、品質の安定化を図るため、配線器具の結線が容易にできる「引き締め端子」を開発しました。
さらにその数年後には差し込むだけで結線できる「速結端子(フル端子)」を開発、現場の電気工事士の作業内容は劇的に進化し、家庭の電化は急速に進んでいきました。
施工のしやすさという現場目線をしっかりと反映させていく。
この「電工魂」は、今後もずっと続いていくことでしょう。
100年後を見据えて、「人」のことを考えたビジネスを構築
さて企画立案・環境整備、施工ときて、最後に運用面。
「ソーラーカーポートPPA」は商用化ベースに乗っているため、運用面でも私たちパナソニックがサポートしています。
ソーラーカーポートPPAは設置企業から電気使用料金を徴収する必要があるため、日々の発電量を監視する必要があります。著しく発電量が落ちている場合は、すぐさま現場に向かい、機器のチェックと修繕する体制の構築も必要。
100年前の1918年、創業者の松下幸之助は電灯ソケットをコンセント化するアタッチメントプラグを開発し、日本の家庭電化に多大なる貢献をしましたが、このアタッチメントプラグは100年以上たっても形を変えずに現在も生産されています。
脱炭素社会に向けた大きな一歩
広島の事例も50年後、100年後の日本のありかたを見据えたビジネスです。
CO2を排出しない方法で作られた電気で、CO2を排出しない車が動く。
それが、環境省が提唱する「ゼロカーボン・ドライブ」。
この実現のためには、太陽光とEVの普及が不可欠となります。
今回の「完全自立型EVシェアリングステーション」はEVだけでなく、可搬型の蓄電池もつながっており、電動アシスト自転車や電動シニアカー、電動キックボード、電動軽トラックなどに利用したり、災害時の非常用電源として利用することができるようになっています。完全自立型の発電・蓄電システムは、災害時にも電力を安定供給できる、優れた仕組みと言えます。
クリーンエネルギーを「創って」「蓄えて」「配る」。
この仕組みが広がっていけば、脱炭素社会は絵に描いた餅ではなくなっていくでしょう。
一般家庭の庭やコンビニの駐車場にソーラーカーポートとEVが並ぶ光景が当たり前になるのは、そう遠い未来ではないのかもしれません。
50年後、100年後、私達の子孫が豊かで安全に暮らす未来のために、パナソニックはこれからもクリーンエネルギーの普及に取り組んでいきます。