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創業100年以上の企業がスタートアップとより明るい未来を創造していく

〝アクセラレータープログラム〟を知っていますか?
簡単にいえば、スタートアップの支援。
皆さんもクラウドファンディングに参加するなど、今までになかった新しい製品やサービスが作り出す〝未来〟に触れたことがあるのでは?
 
実はパナソニック エレクトリックワークス社も”アクセラレータープログラム”を2021年度からスタートしています。

創業から100年以上が経つパナソニックと、創業間もないスタートアップの結びつき。日々変わりゆく「当たり前」と真剣に向き合い、一歩先を考え、新たな価値を生み出し、今より素敵な未来を作っていく。
そのためにパナソニックだけではなく、強い意志を持つさまざまなスタートアップ企業と共に進んでいく。
 
今日はアクセラレータープログラムのウラガワをご紹介します。

お互いの成長を加速させるために

アクセラレータープログラムとは、「スタートアップの支援」と冒頭書きましたが、社外のスタートアップ企業の事業発展・成長を支援するプロセスを通じて、自社のイノベーションを創り出すためのプログラムのこと。

「アクセラレーター」は、英語で「Accelerator」=「加速させるもの」という意味。まさに両社の成長を加速させるための取り組みと言えるんです。
 
私たちも昨年からこのアクセラレータープログラムをスタートしました。
昨年度のスケジュールはこの通りです。

スタートアップとパナソニックとの連携には、EW社の社員から〝カタリスト〟が選ばれ、EW社の役員もメンターとして参画。
スタートアップにカタリストが伴走しながら、パナソニックのリソースとメンターの知見を大いに活用して、事業化に向けた協業ができました。

始まりは危機感、そして変わりゆく社会に寄り添うために

昨年2021年度の中心メンバーである、経営企画室BX部 部長の戸屋 祐一、染井健太郎、王恬、2022年度の中心メンバーである経営企画室 事業開発推進部 部長の原 尚史、成田 篤雨、大杉 将斗、前田 沙江の7名に熱い想いを聞きました。

2022年度アクセラレータープログラムメンバー (左から成田、前田、大杉、原)
2021年度アクセラレータープログラムメンバー(左から王、戸屋、染井)

2022年度のアクセラレータープログラムの中心メンバーである大杉に、立ち上げへの思いを語ってもらいました。

「EW社は22年度から『いい今日と、いい未来を電気設備から。』をスローガンに掲げています。私は生活する方たちのさまざまな価値観にEW社が寄り添うことがまず大事なステップだと思っています。
最近は社会情勢が大きく変化し、人々の価値観は日々刻々と多様化しています。そんな時代にEW社だけの知見では皆さまのご要望を満たせないのではないか…と考えました。
だからこそ覚悟を決めて、ベンチャー企業や、スタートアップの皆さんと共に未来を創っていく必要があると思いました」(大杉)

2021年から実際に本プログラムに携わっていた戸屋にとっての立ち上げへの思いには、EW社が抱えていた課題が隠されていました。

「以前から『社外ネットワークの活用』とか、『スタートアップとの協業』といったワードが社内でよく出ていたんです。でも、実際にその取り組みが社内のあちこちで起きているかというと……あまり実感はなかった。
ならば、『無理矢理にでもそういう機会を創ってみよう』と、思ったんです。そして、『これからEW社は社外との共創活動を積極的にやっていくんだ!』という考え方を社内外に発信し、このプログラムを進めればこういったマインドを醸成できるかも、と考えていました。」(戸屋)

様々なバックグラウンドの持ち主が集まっている本チーム。
海外での実務経験が豊富で部門長であり、メンバーの中心人物の1人である原。ドイツ駐在中に実際にスタートアップへの投資を通じて協業をした経験がアクセラレータープログラムを始める一因になったと語ります。

「ご存じかもしれませんが、欧州はパートナーリングとかアライアンス(連合・提携)といった考え方が進んでいます。
我々と市場で切磋琢磨するライバル企業では、スタートアップとの協業を事業のコア戦略に据えている、そんな実態も知りました。

そこで日本に帰国してからは、戸屋と共に『EW社でも、ソリューションの質と開発スピードを上げるために、自前主義にこだわらず、スタートアップとの連携を含めた外部資源の活用をもっとやらなければいけないのでは?』といった話し合いをよくしていました」(原)

このように今までも海外ではスタートアップとの協業はありましたが、本プログラムを開始するまで国内ではスタートアップとの協業があまり進んでいませんでした。
ここ数年、日本国内でもアクセラレータープログラムを実施する会社は、他社にも増えていることに強い危機感を持っていた一人がメンバーの成田です。

「ここ数年、日本の大企業がスタートアップと協業する動きは活発化していますね。誰もが知るような大手デベロッパーや、電気メーカーでアクセラレータープログラムを開催した事例が山ほどあります。
私たちもどんどん進んでいかなければならない、と危機感を感じました。」(成田)

100年続く大企業だからとここで満足してはならない、
次代に残り続けるためには私たちも怖がることなく
先に進まなければならい。

私たちだからこそできるスタートアップ企業の支援、
同時に私たちも頭を柔らかくし次代を見据えたビジネスを
推進していかなければならない。

メンバー全員の危機感と革新への熱い思いが、アクセラレータープログラムを立ち上げる原動力になったのです。

アイデア重視で選ばれた8社

そんなメンバーの熱い想いで始まったアクセラレータープログラム。
想いや期待が強いからこそ、スタートアップ企業もEW社のメンバーもドキドキしたという最終選考はどうだったのでしょうか。
 
最終選考では事前に選ばれた13社がビジネスアイデアのプレゼンテーションを行いました。
ベンチャー業界の有識者である社外審査員4名と、EW社の社長をはじめとするパナソニックの審査員4名が審査。最終選考を見たパナソニック社員も投票することで審査に参加し、最終的に8社が採択されました。 

8社という狭き門を潜り抜けたスタートアップをここでご紹介。

1.株式会社アイ・ロボティクス
産業基盤の機械化・遠隔化・自動化を進めるソリューション・イノベーター
 
2.AZAPA株式会社
ユーザー感情に基づく新たな付加価値の創造と提供スキームを構築する「プロジェクトOlive」
 
3.株式会社アルダグラム
建設業の生産性向上を実現する、施工管理アプリ「KANNA」
 
4.EAGLYS株式会社
秘密計算を中心としたデータセキュリティ技術とAI設計技術を基盤にサービス提供
 
5.株式会社ソラコム
「IoTの民主化」を実現する、グローバルIoTプラットフォーム「SORACOM」
 
6.株式会社TACK&Co.
超高層建設現場のモノの管理に変革をもたらす IoT Solution「Mono-Tracker」
 
7.DataLabs株式会社
三次元点群データの自動モデリングから熱や気流等の各種シミュレーションまでをSaaSで提供
 
8.バウエス株式会社
建築省エネ検討を圧倒的に簡単・高速化するアプリ「BAUES Analysis」
 

応募されたスタートアップは100社ほど。
戸屋いわく「応募数は正直思っていたよりはすこし少なかった」とのこと。

応募数よりもアイデアの方が重要だと思っていたので、数の多少は問題なかったですし、実際にアイデアを拝見すると、幅広い内容で興味深いものばかりでした。
非常にユニークなアイデアをお持ちの個人の方や、プロダクトはすでに完成しているスタートアップまで様々でした。

実際の選考では、『我々とすぐ組める』現実的なアイデアを選ぶか、それとも今の事業とは少し遠いけれど、将来性を見据えて選ぶか…基準をどこに置くかは悩ましかったですが、結果的には「バランスの良い選出」ができたと思います。」(戸屋)

「21年度は当社側からは応募テーマを設定しただけだったんです。
協業提案はスタートアップから、と一方向で実施していたことについては改善の余地があると考えています。将来を期待させるアイディアをもっと引き出せるようにと思っています。」(戸屋)

お互いのアクセルを加速させた3カ月間

厳しい選考をパスしたスタートアップ8社には、2022年3月までのプログラム期間中、カタリストが伴走したのはお伝えしたとおり。
 
カタリストとスタートアップとの間で、企業カルチャーの違いがうまく嚙み合わないのではないか、スタートアップのスピード感に追いつけないのではないか……そんな懸念を当初は持っていたそうです。
 
しかし、カタリストはモチベーションが高く、逆にスタートアップ側から「パナソニックのスピード感はヤバいです、速いです!」といったお声を、プログラムが進むほどいただくことがあったと、戸屋は安堵しています。
 
一方で、多くのスタートアップは資金が限られることもあり、企業の存続への危機意識が強いと感じたそう。また、わたしも含め大企業の慣わしとして、数字での管理に縛られがちな傾向にあります。

「スタートアップはビジョンドリブンで、『自分たちは何を成し遂げるべきか?』を軸に考えることが多く、我々の価値観との違いを実感しました」(戸屋)

 ところで、スタートアップはEW社と組むことでどのようなメリットがあったのでしょうか? その好例を昨年度のメンバー染井は2点挙げてくれました。

「例えば採択企業の1社であるアルダグラム社の『KANNA(カンナ)』は、建設業で働く人の生産性向上を目指す『施工管理アプリ』。
私たちと協業する前から数千規模の顧客をお持ちだったのですが、電気工事業者さまの加入はまだ少なかった。
私たちは多くの電気工事会社さまとお取引をさせていただいており、アルダグラム社単独ではアプローチが難しかったお会社をご紹介できたのではないかと思います。」(染井)

アルダグラム社「KANNA(カンナ)」のデモ画面

「アイ・ロボティクス社はドローンを活用したソリューションを提供する企業ですが、そのテストフライトの場所として、カタリストの一人が高槻工場をご紹介しました。その結果、『今までになかった規模でテストフライトが出来た』と喜んでいただけました。これらはEW社が持つアセット(資産)を有効活用させていただいた好事例だと考えています」(染井)

原もまた、今回のアクセラレータープログラムを通して、EW社が持つアセットの恩恵を改めて意識したと言います。

「我々は普段、自社のアセットの恩恵を特別に意識することはあまりありません。ベースの経営資産という認識なので。
しかし、スタートアップの皆さんにはとても貴重に感じていただけたようです。これをフックにして、スタートアップとEW社がWin-Winの関係になれればいいなぁと願っています」(原)

一方で課題もあったようです。それはEW社内から選抜された、カタリストの面々。
彼らは約3カ月間もの期間、業務の2〜3割ほどの時間をアクセラレータープログラムの活動にあてています。カタリスト活動を通してEW社のさまざまな技術、技術者をスタートアップへ紹介することができたのですが、その紹介が「カタリストの知り合い」に偏りがちだったことは反省点。

昨年度のメンバーである王は課題点を指摘しながらも前向きにこう話します。

EW社内には様々なスキルを持つ人材やナレッジが豊富にあるにも関わらず、スムーズに結びつけることができないのは、アクセラレータープログラムに限らずいろいろな面でEW社としての機会損失になっているのではないか……これを改善すればもっとEW社の持つポテンシャルを最大限に活用できるのではないかと感じました。」(王)

アクセラレータープログラムが創り出す未来とは?

アクセラレータープログラムは〝活動のための活動〟ではなく、あくまで事業につながる活動です。
 
21年度に選ばれた8社の活動は主にB to B。
だからといって、本活動はビジネスパートナーに対してのサービスのみにとどまらないと原は考えています。

「この活動の主軸には“ビジョントリブン”という考え方があります。これは、市場・業界・社会における、なぜ?=Why?から動機づけられるもの。

エンドユーザーも含めたステークホルダー(利害関係者)に対して、問題解決や新たな価値の提供につながる活動だと思います。短期間で結果が出るわけではないでしょうが、良い結果が出ることを信じてリードしたいですね。」(原)

しかし、そのビジョンドリブンという考え方は、EW社には不足していたと成田は指摘します。

未来創造や社会課題解決を考えるにあたり、自社のサービスや技術をベースに考えがちになっていたところはあるかと思います。どうしても自社視点で物事を考えてしまうんですよね。

それがスタートアップと協業するなど自社以外の価値観に触れることで、自社視点だけにとらわれないビジョンを持てるはず。
その考え方を社内に浸透するためにも、このアクセラレータープログラムを実施していきたいと考えています」(成田)

そして、原はEW社の構造そのものについても、〝ウラガワ〟を語ってくれました。

「近年、我々の業界にもDXを初めとしたイノベーションを要する場面がまちがいなく増えています。そんな中、従来通りの事業戦略だけでは限界がくる。
だからこそ今、外部の力を採り入れるなど〝オープンイノベーション〟が重要になっていくのではないでしょうか。そのひとつがスタートアップとの協業であり、その先に出資戦略があり、大企業同士のパートナーシップやアライアンスが見えてくるのでは。
そういったオプションをいかに活用していくのか…それを〝仕組み化〟することこそ、私たちがアクセラレータープログラムに取り組む使命と考えています。」(原)

2021年度の活動を一度終えたアクセラレータープログラムですが、今後はどう展開していくのでしょうか? 大杉が未来図を描きます。

「2022年度は〝新規事業の創出〟に重きを置きたいと考えています。
応募テーマについて製品企画を担当する各事業部や部門と調整し、事業化を見据えてスタートアップの募集を行いたいんです。

スタートアップの皆さんとEW社が、それぞれの事業アイデアの〝温度感〟を共有し、また〝何年後に事業化する〟といった認識も共有できるようにしたいと考えています。
スタートアップへの〝伴走者〟も最初から各事業部や部門からスカウティングして、最適なスタッフでサポートしたいと考えています。今年度は7月頃から社内に告知し、そこから順次進めていく予定です。」(大杉)

そして昨年度の取り組みの広報部分に課題を感じ、より一層強化していこうと前田は考えています。

「昨年度は初めてということもあり、社外だけでなく社内にもなかなか周知しきれなかった部分がありました。今年度は、より多くの人に活動を知ってもらい、より良い取り組みにしていきたいと考えています。
そのため情報発信にもより一層力を入れていき、盛り上げていければと思います。」

22年度からは、海外のスタートアップ企業も対象にする予定だそう。

「今年から、募集対象を海外にも広げようと思っています。
国内の建設市場がシュリンクしていくことが予測されています。そのような厳しい環境も考慮しつつ、グローバルな目線で事業を考えることも大切なのではないでしょうか。

また、進んでいる市場から技術やモデルを日本に持ってくることにも価値があると思います。」(原)

21年度のアクセラレータープログラムを実体験したスタートアップの8社中6社がEW社との関係継続を望んでいます。

「昨年度のアクセラレータープログラムは終了したので、関係継続を望む6社の皆さんと1対1のビジネスパートナーとして、具体的なビジネスの共創を目指して活動していきたいと考えています」(原)

アクセラレータープログラムを通して深めたスタートアップとパナソニックの絆。創業から100年以上が経つパナソニックと、創業間もないスタートアップの結びつきから、双方にとっての新たな取り組みが始まり、より良い世界に続いていきますように。
 
そう、私たちは願っています。