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阪神甲子園球場の伝統の灯をLEDで再現した、パナソニックの3つの挑戦

こんにちは、ウラナレ編集部です。

兵庫県西宮市にある阪神甲子園球場。
日本における野球の"聖地"と呼ばれ、プロ・アマチュア問わず、数々の名勝負が繰り広げられてきました。

4月5日・・・あの日は忘れられない夜になりました。
阪神タイガースが今シーズン初めて阪神甲子園球場で試合をした日。
今シーズン初めて阪神が勝利をおさめた日。
あの輝く照明がまるでその勝利をお祝いしているようで、#阪神優勝 がTwitterトレンドに入るほど盛り上がりした日。

パナソニックプレゼンツの勝利時演出~ヒーローインタビュー前演出も初披露された日。

その日は、山田杏奈さんを起用し、阪神甲子園球場にて撮影をしたエレクトリックワークス社のCMが初めてお披露目された日。

そう、阪神甲子園球場のフィールドを照らす、照明設備が今春、リニューアルされました。

今日のテーマは、阪神甲子園球場に採用された私たちパナソニックのLED照明。あの輝かしい照明器具、そして歴史ある照明演出のウラガワにせまります。

阪神甲子園球場の歴史と伝統の継承

阪神甲子園球場の照明と言えば、1956年に全国で初めて採用された「カクテル光線」の発祥の地。そもそもカクテル光線を知らない人のために簡単に説明を。

カクテル光線は、白熱電球の自然光に近いオレンジがかった色味と、明るさを補うための水銀灯による青白い光を組み合わせた照明手法です。
より明るく安定したプレイ環境を実現するカクテル光線は、ナイター照明のスタンダードとして、全国の球場に普及していきました。

そんな伝統あるカクテル光線ですが、近年、LED灯へ置き換わりが進み、実は姿を消しつつあるのです…。

阪神甲子園球場では、2007年から2009年にかけて、球場全体の大規模なリニューアル工事が行われ、その際4基の照明塔が建て替えられましたが、当時の技術水準では、カクテル光線をLEDで再現することが難しいという理由で、LEDへの交換は見送られていました。

しかし、それから十年あまりの時を経て、その試みに挑んだのがわたしたちパナソニック エレクトリックワークス社。

開発・検証に費やしたのはおよそ2年。2021年11月から2022年2月にかけて、"銀傘"と呼ばれる内野席を覆う大屋根の両翼と、外周部にある4基の照明塔を構成する計756台のすべての照明器具がLEDに交換されました。

パナソニックにとっても、非常に大がかりなプロジェクトで、2019年に開発に着手し、30名ほどの部隊が挑みました。

今回は、プロジェクトに携わった中心メンバーの1人である屋外調光事業推進部 久米嶺主任技師にインタビュー。「技術者としても大きなチャレンジでした」と、3つの挑戦を語ってくれました。

挑戦1:2年かけてLEDでの白色とオレンジ色の再現に追及

1つ目が「白色とオレンジ色の再現」。最終的に、白色5700K(ケルビン)、オレンジ色2050Kという色温度のLED灯を組み合わせることで、明るさを保ちつつも温かみのある4300Kの色温度が実現されています。

 ケルビンとは:光の色を表す指標のこと。 光の色には、「ロウソクの光」「朝日の光」や「蛍光灯の光」など、 赤みの帯びた柔らかい光もあれば、目に刺すような青白い光もあります。 例えば、ロウソクのような赤みがかった光は2,000K、昼の太陽光は5,500~7,500K、晴天の青空は10,000Kとなります。

久米によると、この色味を決めるまでに要した期間は2年。つまり、プロジェクトの最初から最後まで挑戦が続きました。

屋外調光事業推進部 久米嶺主任技師

「色温度で言うと、2050Kが従来の高圧ナトリウムランプと同等の黄色がかったオレンジになるのですが、初期の段階では、オレンジ色灯は3000Kという今の最終形よりももう少し白色光に近い色味で検討していました」

ところが、難題だったのは「昼白色の光と混ざった時にちょうどいい色味にするにはどうしたらいいか」。久米自身も器具単品では色味の開発経験があったそうですが、2つの色を混ぜ合わせるというのは初めてのチャレンジ。まずは設備そのものもないところからのスタートだったそうです。

「2台以上のLED投光器を並べて、色味を検証するという設備自体が社内にはありませんでした。そこからしてどうしようかと検討が始まったわけですが、まずは暗室の壁に照射させて検証してみるところから始めました」

しかし、言わずもがな実際にLEDが設置されるのは屋外の野球場です。当然ながら天候や風など外的環境の影響も受けることになります。そこで、次に行ったのは社内にある広場での検証。

「架台を試作して、その上に3、4台のLED投光器を載せて検証を行いました。ただ、どうしても夜しかできない作業なので、17時ぐらいから始めて19時頃までの間に検証をして、22時に撤収するという地道で骨の折れるプロセスでした」

挑戦2:芝生や土の照射面で果たして納得がいく色味を再現できるか?


社内における検証を経て、LEDで目指すべき色味の仕様が定まった後は、カクテル光線を「どのようにして照射面で想定どおりに実現させるか」というチャレンジに挑みます。
実際の阪神甲子園球場では、白とオレンジの2色のLEDをさまざまな方向から照射させる上に、芝生や土の照り返しといったグラウンドならではの条件もクリアーしなければなりません。そして、それぞれの光の線を結んで交わったポイントで、自然光の色味に近づけるという課題を解決する必要があります。

「それぞれをずらしてバランスのいいところを見つけて、照らしたポイントでの色味が満足できる、その定義を策定するのが大変でした」

というのも、同じLEDでも家庭用のシーリングライトの調色機能は、1つの器具の中で白とオレンジの色味のバランスを整えれば解決します。
ところが今回の場合は、照明器具を通したLEDの光で、その上で目指すべき色味を決め、さらにどのポイントを狙うか

「レンズを介してまっすぐに光を飛ばしているとはいえ、もちろん色味は若干変わります。その上で、LEDのバランスがどれぐらいだったら満足いくレベルに達するのか、シミュレーションを重ねた上で仕様を策定していきました。実は、開発初期から中期の段階では、完全に色味に満足していないところもあったのですが、最終的には白色を思いきって、要求仕様を満足する範囲内でずらして調整し、お客様にご納得いただけるレベルになりました」

加えて、昨今のテレビ放映が行われる競技場では、4K8K放送に対応するため、極めて高い演色性(自然光を基準にして色の再現性を示した指標)の照明器具が求められます。

パナソニックとしては、既に4K8K放送に対応したプロスポーツ施設向けのLED設備の開発実績はありましたが、白とオレンジの2色のLEDを混ぜ合わせた事例はもちろん初めて。

「LEDチップのメーカーさんとも相談して、LEDと器具にした時の相関からシミュレーションして仕様を決めていき、4K8K放送を対応するため、演色性の基準値をグラウンドの端から端まで満たすことができました」

もちろん、納品後も現場での計測を行われたとのこと。
「観客席にも照明がつくため、演色性が低くなってしまうのですが、平均して見た時に満足する値に近づけました」と、挑戦は最後まで続きました。

阪神甲子園球場の担当者によると、LED化にパナソニックの技術が選ばれたのは、カクテル光線の再現性に加えて、光のまぶしさややわらかさに優れていたことも挙げられます。それを実現したのは、オリジナルの配光・レンズ設計技術。

「LEDの光をまっすぐに飛ばすレンズで、漏れにくいように光学設計をしています。挟角配光によって、光が分散して塊になりにくく、球場外に漏れる光も抑えることができ、どこから見ても不快なまぶしさを感じさせない優しい光環境を実現しています」

まぶしさを抑えるために、各照明器具は角度を緻密に設定し、1台ずつ手作業で調整が行われています。
さらには、VR技術やシミュレーションによって、プレイヤーから見たまぶしさやボールの視認性の評価をはじめ、場外に漏れる障害光のチェックなども行われているとのこと。

挑戦3:色味のバラつきを抑えるために原因を探る

白色548台、オレンジ色208台の計756台のLED投光器で構成されている、阪神甲子園球場の「新カクテル光線」。

3つ目の挑戦は、「製造上個々に発生してしまう色味のバラつきやズレをいかにして抑えるか」

久米によると、まず突き止めなければならなかったのは「バラつきがどこにあるのか?」ということ。バラつきが器具の中で発生しているものなのか、それとも外側で発生しているものかを精査する必要がありました。

内部で発生しているものに関しては、LEDの供給メーカーの協力のもと、汎用商品より厳しい基準で精査して製造を依頼して、LED単体で色合わせを綿密に行うそう。
しかし、どれだけ高い基準で製造しても、本来は決まった範囲の中に収まっているはずの光の色味がどうしてもはみ出してしまう所も出てきてしまうそう。

「LEDで色味のバラつきがある場合は、色味を平均化するように組み合わせて調整する方法で抑えました」

1956年に誕生した、阪神甲子園球場のカクテル光線。
パナソニックの技術者たちの想像以上に地道な努力と徹底した追求の上に、LEDによって生まれ変わった、昭和の雰囲気を醸した歴史的無形文化財とも言えるノスタルジックな灯をぜひその目で確かめてみてください。

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