見出し画像

盆栽×宇宙ライトアップでインバウンド客を増やせ!

「ナイトタイムエコノミー」という言葉をご存じでしょうか。観光庁では、「夜の時間帯にも文化活動の幅が広がれば、訪日外国人含めた訪問客の滞在時間が増え、消費拡大が実現する」と定義しています。新しい施設を作るのではなく、今ある資産を活用して夜間人口を増やせば事業拡大が図れて経済が活性化する。そんな取り組みです。

日本は諸外国に比べると比較的治安が良いにも関わらず、海外の有名観光地に比べてナイトタイムエコノミーに対する取り組みが遅れていると言われています。娯楽・文化施設の閉館時間は早く、夜は飲みに行くかホテルに帰って寝るしかない。地方は飲食店すらも閉店時間が早く、外での楽しみが少ない状態です。

そうした中で、映画の題材になって盛り上がっている埼玉で、内外の観光客を誘致してナイトタイムエコノミーを拡大するための取り組みが行われました。ナイトタイムといえば照明、照明といえばパナソニックの技術!ということで、今回は観光誘致を照明技術でサポートさせていただいた事例を紹介します。


盆栽庭園に秋の星座「アンドロメダ座」が浮かび上がる

日本政府観光局によると、コロナ前の2019年の首都圏における外国人旅行者訪問率は東京都47.2%、千葉県35.1%、神奈川県7.8%に対して埼玉県は1.1%と、首都圏の中でも極端に低い結果となりました。東京都は言わずもがな、東京ディズニーランドがある千葉県、箱根・鎌倉という世界的にも有名な観光地を抱える神奈川県に比べると、埼玉県の知名度は遅れをとっているようです。

そんな状況を打破しようと、このほどひとつの試みが行われました。さいたま市にある大宮盆栽美術館では2023年10月27日~12月10日の約1カ月の間、さいたまが誇る日本文化、「盆栽」をライトアップするイベントを開催したのです。

盆栽は「BONSAI」とそのままアルファベット表記され、欧米・アジア地域でも愛好家が増えています。大宮盆栽美術館にも海外から観光客が訪れ、周辺の盆栽園の体験教室には外国人客の姿も見受けられます。

世界的にも知名度が上がりつつある盆栽を通じてさいたま市の魅力をより強く発信するとともに、ナイトタイムエコノミーを盛り上げようと今回、さいたまスポーツコミッション/ジェイコム埼玉・東日本主催、さいたま市共催で盆栽ライトアップが実施されました。このライトアップのシステム構築をはじめ、コンセプトの企画、演出を担当したのが私たちパナソニック エレトリックワークス社でした。

当社は街演出クラウド「YOI-en(ヨイエン)」を用い、京都・平安神宮の應天門をライトアップした「NAKEDヨルモウデ2022 平安神宮」(2022年11月~12月)や、北海道・札幌芸術の森の「サッポロアートキャンプ」(2023年2月)では雪景色をライトアップしてきましたが、これらの実績が主催者の目に止まり、今回の採用となったのです。

今回のライトアップは「THE BONSAI Microcosm journey~THE盆栽 小宇宙の旅」と題されていますが、ライトアップの指揮を執ったソリューションエンジニアリング本部の青木昌広はこのテーマ設定について次のように語ります。

「盆栽美術館のライトアップイベントは世界初の試みであり、前例がないので光の当て方のお手本がありません。そこで、盆栽が“小さな宇宙”と呼ばれていることを知り、宇宙をモチーフにした光のデザインにすることで、盆栽の新しい魅力が出せるのではないかと提案したものです。」

盆栽は小さな鉢植えの中で四季を表現したり、生きた枝と枯れた枝を同時に使って死生観さえも表現することがあります。小さな宇宙と呼ばれる所以ですが、そんな盆栽の魅力を引き出すため今回、大宮盆栽美術館の庭園全体を宇宙に見立ててライトデザインすることにしたのです。

秋の代表的な星座であるアンドロメダ座を構成する星々の形にLEDライトを配置し、それらを取り囲むように並んだ大型の盆栽が浮き出るようにライトアップ。すべての明かりは連動しており、電球色→春→宇宙→夏→宇宙→秋→宇宙→冬→宇宙→電球色と90秒ごとに色が変わっていく演出により宇宙と四季を表現しました。

青木:「盆栽は1鉢ごとに形が異なります。光をどのように当てたらより盆栽が際立つのかを考えてライトの位置を決める必要があります。当社は街灯などの明かりの広がり方を事前に調査するためのシミュレーションシステムを持っていますが、盆栽は形がすべて異なるので机上のシミュレーションができません。そのため、何度も夜間に現地に赴き、庭園を歩き回って検討しました。光を当てる角度は下からがよいのか正面からがよいのか、光の範囲は狭いほうがよいのか広いほうがよいのか、どの色が映えるか、針葉樹と広葉樹では光の当たり方に違いがあるのかなど、現地で試験的にライトを設置して様々な試行錯誤を繰り返しました。また、建造物のライトアップと異なり、盆栽は陰影も重要になってきます。そこで、盆栽の複雑な立体感を出すべく、あえてスポットライト1灯を下から照らして陰影が生まれるような工夫をしています。」

近景の「YOI-iro」イメージ

盆栽1鉢の中に、まるで星雲のような宇宙を感じられるライティングを施したのです。また今回は来場者がきらびやかな明かりを単に眺めるだけでなく、参加して楽しむ仕組みを導入しているのが一般的なライトアップイベントとは一線を画するところです。

来訪者がライトアップを自分色に染める

ひとつが、庭園の全体照明を誕生日カラーに染めること。美術館2階のテラスに設置したボードの二次元コードをスマートフォンで読み取り、誕生日を入力すると庭園全体がその人の誕生日カラーに変化し、アンドロメダ座がBGMとともに浮かび上がります。同時に、スマホにも誕生日カラーのアンドロメダ座が映し出されます。この仕組みは平安神宮やサッポロアートキャンプでも導入されましたが、今回はもう1つ、新しい試みも導入されています。

盆栽庭園全体を見渡せる盆栽テラスから、アンドロメダ座の配置に並べられた庭園全体の照明演出を変えることができる

庭園入口に設置したひときわ大きい盆栽にプロジェクターを当て、星々の煌めきを映して宇宙空間を表現しているのですが、同じくスマホでアクセスすると誕生日からその人のイメージ惑星を占い、盆栽に惑星テーマの映像を映し出すとともにスピーカーから音が流れ、同時にスマホにも惑星が表示されるというものです。小宇宙の中に、さらに小さな自分だけの宇宙を覗き込むことができるのです。

青木:「全体照明のほうは、誕生日照明の演出が通常演出のルーティンに影響を与えないよう挿入するタイミング調節に苦労しました。惑星のほうは、LED照明とプロジェクターによるプロジェクションマッピング、音響効果の3つのタイミングを合わせるのに苦労しましたね。例えば来場者がスマホに入力してから数秒遅れて演出が始まったり、映像から0.5秒遅れて音響が鳴り響くというように、少しでもずれが発生すると演出空間への没入感が損なわれてしまうのです。すべてがぴったり重なるよう、かなりシビアに調整しています。」

SNS映えする自撮り撮影が夜間人口増加のカギとなるか

大宮盆栽美術館の反響からさらにYOI-enは進化を続けています。これまでは建造物や盆栽など、人ではないものをきれいに照らし出す照明演出でしたが、背景の撮影とともに人物の写り方にこだわった演出を検討中です。

青木:「SNSの発展により、映えスポットを訪れたら自撮りするのはもはや当たり前ですが、スマホで夜景と一緒に自撮りするのはなかなか難しいものです。新たな試みは人物も建物も美しく浮かび上がり、よりSNS映えする写真が撮れるというコンセプトで検討しています。」

これまで、夜景のライトアップは外から客観的に眺めるものでしたが、YOI-enは自分が夜景の中に入れる、自分が主役になれるライトアップコンテンツを実現します。スマートフォンと建物に映し出される自分の誕生日カラーがいつもの自分好みの色とは違う色になったときには、「自分にはこんな色も似合うのかもしれない」と新しい発見ができるかもしれません。

青木:「照明システムをクラウド管理することで、様々な新しい試みができるようになりました。今後、他社とも協業してさらに新しい夜の楽しみ方を創造し、各地のナイトタイムエコノミーを盛り上げていきたいと考えています。」

外国人観光客が知らない魅力的な場所はまだまだ日本にたくさんあります。SNSで瞬く間に世界中に情報を発信できる現代、私たちパナソニックは明かりを使って日本の魅力を発信し、地域経済の活性化に少しでも貢献したいと願っています。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!