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華麗なホタルの舞を町里に再び取り戻すために追い求めたホタルに優しい"光″

今日のテーマはホタル。
梅雨の季節が来るかと思ったら、まさかの猛暑の日々ですが、本来梅雨はホタルの見ごろシーズン。夜空に幻想的な光が飛び交う風景は、日本的な趣を感じたり、懐かしさを感じる方もいるかもしれません。

日本に生息している代表的な種類として知られているのはゲンジボタルやヘイケボタル、ヒメボタルですが、日本には50種類以上のホタルが確認されていると言います。しかし、専門家によると、ホタルの生息数は年々減少傾向にあるとのこと。
その要因としては、生息環境の悪化をはじめ、生態系の変化、ホタル観賞のマナーの問題などが挙げられます。

わらべ歌『ほたるこい』の歌詞から思い起こされるように、ホタルは水がキレイな場所を好む生き物であることは知られていますが、実はホタルは明るい場所が苦手

お尻を光らせることによってメスを呼び寄せたりコミュニケーションを図っているホタルにとって、人工的な光は子孫を残すことを阻害する原因。今のご時世は、人間もですがなんだかホタルにとっても生きづらいようです。

さらにホタルの減少傾向は、日本に限らず海外でも起きているとか。
一方で、国や地域によっては、ホタルは貴重な観光資源の1つにもなっています。そこで、近年ホタルを保護しようという活動が世界中で広がってきています。

このようなホタルの実態を語ってくれたのは、パナソニックでホタルと人が共存できる"明かり"のための取り組みを10年にわたり続けている、青木慎一主幹技師です。人と暮らしのために快適なあかりを提供するだけにとどまらない、環境保全のための照明事業について聞きました。

ホタル第一人者と共に続けた、ホタルを守る光の研究

青木が一般蛍光灯やLED光源などの照明がホタルに与える影響について研究を開始したのは2008年頃。
全国ホタル研究会の名誉会長をはじめ、横須賀市長井海の手公園 ソレイユの丘ホタル館顧問などを歴任し、日本でホタル研究の第一人者として知られている故・大場信義氏(2020年に逝去)の協力・指導のもと、照明によってもたらされるホタルの行動変化の観察や評価実験を継続的に行うことから研究を始めました。

青木によるホタル以外も含めた虫と照明の「よい関係」を追求した詳細に関してはこちらの記事をご覧ください!

青木慎一 主幹技師

「室内では、アクリルケース内にヘイケボタルを20頭ほど入れて(実はホタルの数え方は「匹」ではなく「頭」です!)、LED光を照射した際に、ホタルの行動や発光度合いがどのように変化するかの考察や検証を繰り返し行いました。屋外では、ヘイケボタルの発生している場所で実際に光を照射して検証を行いました。
LED光の色や波長、強度、点滅のパターンなどを細かく変えて、その差を比較したりしましたよ。

実験を始めた当初は、ホタルの習性や行動について大場先生に1から教えていただきながら観察していましたが、次第にどんどんとホタルについて詳しくなり、実験の後半ではホタルの行動を見ればだいたいの判断がつくくらいホタルについて深く理解していきましたね。

ホタルの発生自体は地域差は少しあるが決まった時期のため、その時期に年1~2回程度しか実験を行うことができません
その上、生き物なので取扱いも容易ではなく、長期にわたって本当に地道に実験を積み重ねて研究を続けました。実験が終わったホタルは元の生育場所に戻し、また新しいホタルを捕まえて実験をするという毎日でした。最終的にはホタル自体を飼育しようと、餌であるカワニナを生育するところまでやっていましたよ(笑)」

カワニナ生育の様子

ホタルには害がなく、人間に安全性と安らぎを与える明かり

青木によると、一般的にホタルにとって影響がないと言われている光の色は、赤・橙色系。実験からも同様の結果が得られたそう。ただしなかなかの難題が待ち構えています。

「赤い光は人間にとっては、サイレンなどを彷彿させるアラート色。心落ち着く明かりではありません。
ホタルにとっては害がなく、人間にとっては暗がりでの安全性を担保しながらも、やすらげる明かりであること。"ホタル照明"にはこれらの両立が求められます」

さまざまな実験を経た研究の結果、ホタル照明で重要なのは「短波長の光の抑制」と、「川面に光を落とさないこと」の2つであるという結論に至りました。
2017年3月に導入事例の1つとして神奈川県逗子市内の沼間地区と桜山地区を中心とした53ヶ所に設置されたホタル仕様のLED街路灯では、適切な光源を設定しながら道路部に照射し、かつ川側への漏れ光を遮光する配光を有する照明器具が採用されました。

「実験から、光源の波長と照度の両方がホタルに対して影響を与えることがわかっていたので、光源波長と照度を変数として求められるホタル光影響指数(FLI)を設定し、それを低減するように照明設計を行いました。さらに、光漏れを最小限にするために設置場所ごとに最適な角度を調整しています。
実現に向け、照明設計をメインに担当するメンバーらと一緒に、ホタルへの影響が特に大きそうな代表的な2ケ所で、事前に既存照明の照度計測と波長特性を明らかにして新規LED街路灯の照明設計に生かしました。

当時逗子市で行われたLED街路灯への置き換え工事。通常の地域では昼白色が採用され、ホタルの発生が多い地域では ホタル仕様は電球色が採用されました。
「地元の自治会、消防署との安全確認も行い、地域と一体となり、人とホタルが共生できるLED街路灯が実現できました」と語ります。

神奈川県逗子市 街路灯

照明器具の置き換え後、地元の市民グループ 「ホタルの里の会」によって行われた調査では、ホタル最盛期に前年の2倍以上の増加数のホタルが確認できました!住民の方からは驚きの声も上がっていたようです。

街照らす「ホタルの光」を守れ! 神奈川・逗子市が生息環境守るLED街路灯を設置 (1/3ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

空間を演出しながら、ホタルの生態を守る照明

ホタル仕様の照明が導入されているもう1つの事例が東京・千代田区の「東京ガーデンテラス・紀尾井町」内の「光の森」です。2016年6月に、旧グランドプリンスホテル赤坂の跡地にオープンした施設で、再開発以前から生息していた樹木を再移植するなど保存・活用しながら、自然に近い生態系を目指して再生された人工森です。

東京ガーデンテラス紀尾井町5周年|KIOI CONNECT (tgt-kioicho.jp)

東京都心や皇居周辺地域では在来の個体種であるヘイケボタルが確認されていることから、施設内にはビオトープも整備され、2016年度からはヘイケボタルの幼虫の放流を実施。
以降5年間で累計約2,000頭を放流するなど、付近のヘイケボタルの生育域保全の取り組みが続けられています。その後も中洲の設置や水草補植といった生育環境の整備が行われた結果、羽化数も増加傾向にあり、2019年度には自然発生の個体が確認されているとのことです。

この「光の森」で使用されているのも、わたしたちパナソニックのLED照明。
公共設備である街路灯を整備した逗子市の事例とは異なり、施設内で管理された空間であることから、防犯用照明としての役割はそれほど要求されません。そこで、空間照明の要素が強く、一定の間隔で地面に埋め込まれた足元灯照明が採用されています。


「ホタルは上の方にも飛んでいるので、低位置でできれば下だけを照らしたほうがいいということで、このような照明器具を設置しました」

「光の森」に設置されている照明。足元の照明に設置し、幻想的な雰囲気を醸成しながら、ほたるにも影響が少ない照明を実現しました。

パナソニックでは従来、蛍光灯からの紫外線をカットして虫を寄せ付けにくくした『ムシベール』という照明器具を展開していました。
大阪府池田市緑丘団地で外構照明として採用されている事例では、光の配光制御によってヒメボタルへの影響がないことが地元の「池田・人と自然の会」によって報告されているなど、ホタル保全と人との共生のための明かりに密かに貢献しているんですよ。

照明から考えるホタルと人の共生、環境との両立

光の研究を長年にわたって続けている青木ですが、改めて"ホタル照明"への想いを次のように語ってくれました。

「研究を続ける中で、減りゆく日本のホタルを守ろうというNPO法人や自治体と出会いました。
各地で町の再開発などが行われる中で、従来は照明がなかったところに照明を設けられることで、ホタルに影響ないのか? と懸念・危惧する声が聞かれました。
その声に耳を傾け、環境と両立できる、ホタルと人が共生できる照明を作りたいという想いで、研究と技術開発に従事しています。これからも、地域の方が一生懸命残したいもの、地域のホタルを守るためのご支援ができる照明をご提供できればと思っています」

人に寄り添いながら、周りの生き物への配慮も忘れない。
人にとっての便利さだけではなく、自然環境のことも考えた照明を私たちはこれからも模索し、社会に届けていきたいと思っています。

もしまだホタルを見れる場所があればぜひ教えてください。
来年もホタルの幻想的な光で癒されたいですね。