見出し画像

あのステキな空間もコレで設計されている!?照明シミュレーションソフトの革命児「Lightning Flow」って?

公共の施設や店舗、オフィスなど…訪れた場所で、洗練された照明演出を見て「ステキだな~」と感じたことはありませんか?
その照明、もしかしたらパナソニックの技術が活かされているかもしれません!

ひと口に“照明”と言っても、空間をただ明るくするためだけのものではないんです。昨今では心地よさや安らぎを演出するものへと変化しつつあります。

そんな照明演出のお役立ちとして、パナソニックEW社が2021年5月から無償で公開している「Lightning Flow(ライトニングフロー)」。

照明器具の配光や取り付け方向、周辺の物体への反射、太陽光の影響などを3Dデータ上で確認しながら照明設計を行うことができるPC用のシミュレーションソフトウエアです。

2021年5月に公開して以来、導入企業は既に約700社。約2年でこれだけ多くの設計事務所や建設会社で利用されるようになった、その理由を開発者へのインタビューを通じて探っていきます!


パナソニックが手掛ける照明シミュレーションソフト「Lightning Flow」とは?

「Lightning Flow」の一番の特長は、リアルタイムで照明計算ができること

例えば、他の照明設計ソフトウエアで45秒かかる照明計算が1秒で可能になるなど圧倒的な処理スピードで、効率的に照明設計を行えることが支持されているポイントです!

従来のシミュレーションソフトでは、建築データ量や照明器具数が膨大になると、照明計算の時間が飛躍的に増大することに加え、建築と照明の複数のソフトをまたいだデータ変換が必要だったことから、照明シミュレーションの計算にはどうしても時間と手間がかかっていました。

したがって、照明プランの試行錯誤は難しい・・・というのが業界の課題にもなっていました。

この業界課題を解決するため、パナソニックEW社は照明計算用の高速計算エンジンを独自開発。圧倒的な照明計算スピードを実現した上、計算精度においてもCIE 171:2006(※1)に準拠し、大規模な建築データであっても高速に精度良く照明計算することが可能になりました。

また、「Lightning Flow」は、業界スタンダードのBIM(※2)用ソフトウエアである「Revit」ともワンクリックで連携。
「Revit」と「Lightning Flow」内で建築データや照明データの受け渡しをスムーズに行え、大規模建築データであっても照明プランの試行錯誤が可能なワークフローを実現しました。

※1:CIE(国際照明委員会)による照度計算ソフトウエアの評価方法
※2:BIM=Building Information Modeling
コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベース。建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うための仕組み。

2022年12月に実施した大幅なアップデートでは、ユーザーインターフェースを刷新。

これまで照明設計とは別作業で行う必要のあった照明演出の作成やシミュレーションまでサポートしたことで、演出プログラムを作成するだけで動画や3Dのプレゼンテーションまでソフト内で完了できるようになりました。

その他、床や机上面だけでなく、天井や壁などにもどの程度光が当たっているのかを総合的に計算し、空間の明るさ感を示すパナソニック独自指標である「Feu(フー)」のリアルタイム算出や、照明器具の配置機能の拡充、CADソフトとの連携、プレゼンテーション機能の強化など多数の新機能を追加しています。

「Lightning Flow」の実例紹介(パナソニック東京汐留ビル内の「PERCH LOUNGE」の事例)

2022年3月に開設された、東京・汐留にあるパナソニック東京汐留ビル内の「PERCH LOUNGE」は、「Lightning Flow」を利用して実際に照明設計が行われた施設の1つです。

コンセプトは“止まり木”の意味を持つ「PERCH」。人が立ち寄り、行き交い、営業のタッチポイントなるような場をめざして、照明デザインにおいても多くの工夫が施された。
❶通路 お客様が通る通路には、「光だまり」をつくることで、奥へといざなわれるような照明設計に。「Lightning Flow」で完成イメージを確認しながら実施した。
❷ エリアごとに想定した使用シーンに合わせて、色温度と机上面照度を設定。机上面と床面で照度のメリハリがある上質な照明空間を演出。これも「Lightning Flow」でシミュレーション。

照明設計を担当した、パナソニックEW社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 照明デザイン部 内装環境デザイン課の谷邨和子は、次のように語ります。

谷邨:複雑な照明環境の「PERCH LOUNGE」では、イメージする照明を適宜ビジュアルで確認する必要がありました。
「Lightning Flow」を利用することで、照明の位置変更のために複数のソフトを行き来する必要がなくなり、これまでシミュレーションソフトにデータを送った際に発生した照明位置の微修正が不要になりました。

オブジェクトも豊富で、これまでは非常に手間だった机や植栽などの3Dオブジェクトを自作する必要がなくなりました。
合意形成のために、これまではコストをかけて完成予想CGを作るか、言葉で説明しなければならなかったのですが、すぐにビジュアル化できる「Lightning Flow」は非常に有効です。現在も複数の案件で利用しています。

 スマートフォンのエンジニアが照明ソフトを開発!?

 そんな「Lightning Flow」を開発したのは、実はEW社のたった1人の社員です。
担当したのは、ライティング事業部 エンジニアリングセンター 中央エンジニアリング部 照明環境解析課 主幹の高島深志。
2002年にパナソニックに入社して以来、スマートフォンの開発に従事していましたが、2013年にライティング事業部へ異動となり、以降10年にわたって開発を続けています。

高島にとって「Lightning Flow」 の開発は、まさに“畑違い”からの挑戦でもありました。もともとエンジニアではありましたが、照明に関しては未知の領域。

しかし、だからこそ、第三者目線で業界全体の問題点に気付き、「Lightning Flow」を開発する契機につながったとも言えます。

高島:異動当初、照明については素人同然でした。
単位のw(ワット)やlx(ルクス)、照度分布図などは難しく感じましたが、これは施主や建築設計者にとっても同様だと思いました。
つまり、直観的にわかりにくい照度分布図だけでなく、空間の見た目の明るさ感をすぐにビジュアル化し、直接イメージさせられることが重要だと考えていました。

https://www2.panasonic.biz/jp/cec/LF/LF.html

高島:というのも、「施主は空間をイメージできると、壁をもっと明るくしたい、暖色系の穏やかな空間にしたいなど、その空間を自分好みに変えたくなると思います。一方で、設計者からすると、照明計算に大変な時間がかかるので、『一旦事務所に持ち帰りイメージを作り直して、数日後にもう一度お見せします』となりますよね。
でも、私はそのやり方は改善すべきだと思いました。もし照明計算を圧倒的に高速化できれば、その場で施主の意向に沿ってイメージを変更し、施主も設計者も効率的に合意形成が可能になるはずです!
しかも、照明計算の遅さは照明設計そのものを遅くします。空間の明るさをシミュレーションし、目標の明るさに足りなれば照明器具を変更し再度シミュレーションする。場合によっては1回の計算に2日かかることもあります。これは業界全体の課題であり、多くの業務のボトルネックになっていました。

この課題を解決すれば業界に大きく貢献できると考えたとき、“照明計算を高速化する”という使命感が強く芽生え、異動して1ヶ月後には、瞬時に照明計算することができ、ゲームのように3Dでイメージ化するアプリケーションの開発を上司に提案しました。

当時の高島自身は、3Dアプリケーションの開発経験も知識もなく、高速照明計算方法もわからず、「すべてが手探りからのスタートだった」とのこと。

高島:周りには知見者もおらず、一人で技術調査からアプリケーション開発まで行う必要がありました。
とにかく使命感に押されてがむしゃらでした。調べてみると、ゲーム開発分野から、多くの照明計算高速化アルゴリズムが生み出されており、ゲーム業界の最先端のリアルタイムビジュアライゼーション技術論文から高速化手法を学びました。見よう見まねで、スマートフォン上でレイトレーシングシステムを実装したのが開発スタートです。
ここで実現可能か否かの検証を繰り返した後、Windowsベースのアプリケーション開発に切り替えますが、当時のコードはいまだに 「Lightning Flow」 の基幹システムで使われています。
現在でも開発企画から、UX/UI設計、実装、テスト、リリース作業まですべて1人でこなしています。

ゲームの映像技術を参考に、独学で難題に挑戦

高島が開発過程で特に苦労したこととして挙げるのは「計算精度と計算速度を両立させること」。

当時を次のように振り返ります。

高島:目指したのは世界で最も速く、精度の高い照明シミュレーションでした。
当時のゲームのリアルタイムビジュアライゼーション技術は、照明計算は速いのですが、あくまでゲームはゲームであり、計算精度が足りませんでした。一方、照明会社である当社にとって精度は絶対。そこで、ゲームの技術をベースに照明計算精度を両立できるよう技術開発しました。

何年も試行錯誤を繰り返して開発した結果、従来の当社照明計算アプリケーションでは1時間30分かかっていた計算が5秒程度で完結できるようになり、計算精度も同等になりました。また一般的な照明シミュレーションソフトと比較しても計算速度を45分の1に短縮し、かつCIE(国際照明委員会)のテストケースにも準拠しています。

多くの人に使ってもらうため、リアルさにもこだわり、操作性を追求

“見た目も大事”と、UIのデザインにもたくさんのこだわりが詰まっています。

高島:使っていて誇れるアプリケーションにしたいと思っていました。UIもツール感がなく、かっこよく使いやすい。空間イメージには空の表現も大事ですから、昼間や夕方の日暮れ時など太陽と空の表現にも気を配っています。
アイコンやキャラクター、植栽などもこだわって自作しました。キャラクターは目が大事なので、眼球などはレイトレーシングをかけて空間が映りこむようにして、肌の透明感も表現しています。
植栽の素材を探しに夜中に公園にいって木を物色したり。傍から見ると相当あやしかったと思います(笑)

高島自身、実は学生時代には3Dツールを使ってアニメーション映画の制作を行っていた経験もあるとのこと。「Lightning Flow」にかけるここまでの情熱は、CG業界へのオマージュの一部でもあるようです。

3Dツールの扱いは難しい反面、感動的なビジュアライズが可能です。これをだれもが簡単にできるようにして、より多くの方が素敵な光空間を生み出せるようにしていきたい。 『Lightning Flow』の開発に従事してきた、10年間の足跡を残せたらと思っています」と高島。

高島:今後は、さらに導入数を増やしつつ、常日頃使われるツールにしていきたいと思っています!
そして、「Lightning Flow」を無償で提供することで、パナソニックの照明器具を導入する企業の間口を広げていきたいと考えています。
現在は、照明演出のシミュレーションの延長上でカラー演出が行える機能や、1つのアプリケーションの延長線上で現実の照明器具とリンクできる機能の実装を開発している他、細かい部分の処理を改善できるように、日々検証を続けています。

ふと訪れた施設や店舗、オフィスなど、なんとなく居心地のよさや「ステキだな」を感じたら、ぜひとも照明器具にも注目してみてください。

その場所は、「Lightning Flow」でシミュレーションして設計された空間かもしれません。