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空間の「図と地」になる電気設備とは?~ブラックデザインシリーズ誕生ストーリー~

突然ですが皆さん、お部屋の電気設備って意識したことありますか?

 家具やカーテン、絨毯や床の柄などなど…気になるポイントはたくさんある思いますが、意外とインテリアに大きな影響があるのが電気設備なんです。

例えば、生活になくてはならない壁スイッチやコンセント!
白またはクリーム色が当たり前になっており、多くの人は特に疑問にも思わず、そのままを受け入れているのでは?

今回は、知らず知らずのうちに受け入れているものを見直すことで、いつもの景色が違ったものに見えてくる・・・そんなお話です。


電気設備で一番大事なのは「安全性」だけど・・・

もともと、配線器具や照明器具といった電気設備は、昔は電気を家の中に引き込むことで火事が起こったこともあり、磁器や熱硬化樹脂といった不燃材で作る必要がありました。

「電気を安全・便利に届けたい」といった思いからパナソニック創業者・松下幸之助が開発した「アタッチメントプラグ」は大ヒット商品となり、各家庭に普及し電気インフラの礎が築かれました。

その後、高度成長期時代を迎えLDKの間取りに合わせた様々な電気設備が登場。豊かな暮らしの実現に貢献していきます。

時代が平成に入り、バブル経済が終えんすると人々は消費行動や意識を見直すようになり、令和の現代では自分らしいおうち時間を大切にするより、個人の生き方を大事にする価値観になっていきました。

そんな中、パナソニックでは3年ほど前から、空間の背景になる黒色の配線器具の販売をスタート。背景にはリノベーションの増加とインテリアデザインの変化が関係していると、パナソニックのデザイナー、近藤高宣は語ります。

近藤:住宅や商業施設において、マイナスをゼロにするリフォームから、既存のものを活かしながら新たな価値を見出していくリノベーションへと価値観が変化しています。「新しいもの」より「いいもの」を大事にする暮らし方、価値観ですね。その中で、黒い電気設備の商品群が必要なことに気付いたのです。

空間の構造部分を露出して設計するような物件で、既にある配管設備や昔から使われている工業製品の風合いを生かしたインテリア指向はインダストリアルテイストと呼ばれ、現在のインテリアトレンドになっています。最近では打ちっぱなしのモルタルの風合いが得られる塗料や、レトロなタイルなども人気です。また、脱炭素やアフターコロナの意識の中、屋内でも自然とのつながりが感じられるようなバイオフィリックデザインと呼ばれる指向もますます増えています。

このインダストリアル/バイオフィリックの指向性が数年前から新築住宅にもテイストとして取り入れられることが増えてきました。そのような中で、電気設備の在り方を色彩の面から改めて考えました。

「純黒」への挑戦

パナソニックはまず空間の背景としての配線器具「SO-STYLE(ソー・スタイル)」シリーズを開発、発売しました。カラーはマットブラック、マットホワイトの2種類(最近、新たにグレーも追加)。配線器具は一般的に光沢のある素材を使用しますが、マット仕上げとすることで空間設計者が使いやすいデザインとなっています。

近藤:SO-STYLEは黒は黒でも、もっとも環境光の影響を受けない真のブラック、<純黒>を目指しました。
色には明るさ・色味の概念があり、暗ければ暗いほど色味が無くなり周囲の光を吸収し背景色になることができます。
純黒樹脂の実現のため、調達部門、複数のデザイナーと一緒に樹脂材料を配合する現場にお邪魔し、何回も試作を作っては測色、目視での確認を繰り返しました

SO-STYLE発売後、色の販売比率をみると白と黒の販売比率が半々と、想定以上に黒が売れる結果に。

市場の反響を受け、配線器具以外の設備商品にも黒を展開していったそうです。黒い電気設備はいつしか、既に発売している照明器具も併せ、ブラックデザインシリーズと銘打ったプロモーションに発展していくこととなりました。

インテリアの中で『図』と『地』になるために

近藤はブラックデザインシリーズのコンセプトとして、「図と地になること」を掲げています。

近藤:図はインテリアの主役。部屋のイメージを作るアイキャッチ的な存在です。製品でいうと、ペンダントライト、シーリングファン、フロアスタンドなど。
は背景に調和したり、同化する存在。スイッチやコンセントなどの配線器具、ダウンライト、火災警報器や配線ダクトなどがそれに当たります。ブラックデザインシリーズの中でも製品によって役割を明確に意識することで、黒い電気設備がインテリアエレメントとして生きてきます

ダーク色のアクセントウォールに白い配線器具は浮いてしまいます。
配線器具はブラックやグレーを採用することでインテリアに溶け込み、ペンダント照明は逆にブラックを使ってアクセントとして際立たせる。

もちろん、ホワイトでインテリアと同化してもいい。従来の白に加えて「純黒」の電気設備があることで、色の両極があり空間設計者や生活者が様々なインテリアを作りやすくなったといえるでしょう。

特に、配線器具やセンサなどはそこにあるのが当たり前すぎて、空間やインテリアとの調和には無頓着だったのではないでしょうか。
デザインの選択肢がなかったので、違和感を持ちながらもあきらめていた人も多かったかもしれません。

SO-STYLEの登場により、これまで家具の後ろに隠していた配線器具が、部屋のインテリアを構成する1つの要素となりえるのです。電気設備がインテリアの構成要素に変わる。
そんな時代がやってきたのです!

配線器具を使った日本初のインスタレーション展示会を開催!

ブラックデザインシリーズの販売拡大に向け、パナソニックは2023年3月に東京・青山にて同シリーズを一堂に介したインスタレーション展示会(展示空間も含めて作品とみなす手法)を開催しました。

展示デザインを担当したのは新進気鋭の建築家、佐々木 慧さん。電気設備を使ったインスタレーション展示に挑戦したいというパナソニックの想いを受け、検討を始めました。 

佐々木さん:電気設備を使ったインスタレーション展示は日本で初めての試みになると思い、これは面白そうだと。自然界には純粋な“黒”は存在しないと言われていますが、パナソニックの近藤さんたちはその自然界に存在しない黒をブラックデザインシリーズで目指していたので、私は逆に自然界にない黒を使って有機的な風景を表現できないかと考え、今回の『BLACK LANDSCAPE(ブラックランドスケープ)』を考えました」

建築家 佐々木さん

壁スイッチやコンセントなど1300個以上のブラックデザインシリーズ製品を使った展示は、まるで丘のような、海のような、森のような、街にも見える独特の空間を作り上げています。

佐々木さん:近藤さん達と会話する中で、訪れた人の創造性に解釈をゆだねるような展示にしたいと考えました。機能を持った電気設備の意味をはぎ取り、有機的に羅列して環境を構成したらどうなるか。

訪れた方々の感想を聞く限り、狙いは成功したのではと考えています。実現の為、パナソニックさんには多数のサンプルを用意頂きましたが、環境負荷に配慮し再利用できる展示方法としました(笑)

今回の展示会はもちろんブラックデザインシリーズの販促が目的となり、建築デザイナーや設計事務所、電気工事業者、住宅メーカー、デベロッパーなどBtoBのお客様が多く訪れましたが、日常的に使われる工業製品で構成した作品を目の当たりにしたことで、ブラックデザインシリーズの魅力がより伝わったと好評でした。

目指すのは、デザインフィロソフィの一貫性

ブラックデザインシリーズのプロモーションを好評の内に終えた今、パナソニックは今後の展開をどう考えているのでしょうか。近藤に聞きました。

近藤:今回は色、しかもブラックに焦点を当てましたが、お客さん視点に立てばモジュール・ディテール・施工性まで踏まえた、空間に同じ考え方で設置できる商品群を作ることが重要であり、色はそのひとつのファクターだと考えています。
弊社の電気設備は何万品番とあり、一度商品化したら20~30年発売するものもあります(笑)。

ですので、この考え方の実現にはまだまだ時間がかかると考えています。地味ですがコツコツと、新商品開発のたびにこの考え方で商品を作り、デザイン思想にまで昇華できればと思います。

話を伺ううち、パナソニック創業者・松下幸之助が説いた「水道哲学」は、デザインにも通じると感じました。

地味だけど、お部屋に数多く使う電気設備だからこそ、安心して使え、美しいものであってほしいですね。


【取材協力】

建築家 佐々木 慧KEI SASAKI / axonometric

1987年長崎生まれ。九州大学卒業後、2013年東京藝術大学院修了。
藤本壮介建築設計事務所を経て、2021年にaxonometric Inc.を設立。家具デザインから、複合施設、ホテル、住宅、プレファブ建築開発、都市計画まで、国内外で多種多様なプロジェクトを手がける。
進行中のプロジェクトに〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉、〈2025年日本国際博覧会 ポップアップステージ〉など。九州大学や九州産業大学などの非常勤講師を歴任。2022年「Under35 Architecture Exhibition」ゴールドメダル賞受賞。
パナソニック エレクトリックワークス社デザインセンター 近藤 高宣 TAKANOBU KONDO

パナソニック エレクトリックワークス社デザインセンター シニアデザイナー。
1973年埼玉県生まれ。96年東京造形大学卒業。松下電工(現パナソニック)に入社しインハウスデザイナーとして配線器具、住宅設備、照明などの商品デザインを担当。
Gマークベスト100、IAUD国際デザイン賞金賞など受賞歴多数。電気工事士、福祉住環境コーディネーター。