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人とスイッチの「新しい関係性」をデザインする

飲食店に入るとき、スーパーで買い物かごを使う前、電車の手すりやオフィスのドアノブに触れた後……。

コロナ禍になってから、いろいろな場面で手指にシュッ!のアルコール消毒をするのがすっかり習慣になりましたよね。

状況が落ち着いてからも、「誰が触ったかわからないモノ」に対して、衛生的な不安を感じるようになったという方は多いのではないでしょうか。

「触る」と言えば、当社が高いシェアを誇るスイッチ・コンセントなどの配線器具も、1日に何度も人が触る場所。

当然、衛生面でのリスクも高くなります。コロナ禍をきっかけに配線器具に求められるようになった「衛生面での不安」を解決するため、パナソニックでは2022年春に「非接触スイッチ」をリリース。

今回は、その開発に携わった台湾出身のプロダクトデザイナー・侯 柏丞(Hou Pocheng)に、新たなスイッチ誕生までのウラガワを聞いてみました!

デザインセンター 侯 柏丞

スイッチは、「うちとそと」を隔てる境界線

新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに世の中の衛生観念はがらりと変わりました。
今でもエレベーターのボタンなどを直接指で押さないよう、スマホや鍵など身の回りのモノを使って操作する人もいますよね。
そういえばスイッチに対する衛生的な不安って、コロナ禍前からあったのでしょうか?

侯:それほど多くはありませんが、病院や介護施設、公共施設などの非住宅を中心に、スイッチを清潔に保ちたいという声は上がっていました。

しかしコロナ禍になり、非住宅だけでなく住宅でのニーズが急上昇。なぜならスイッチは「うちとそと」を隔てる境界線だからです。

帰宅して室内の照明をつける際に、屋外の汚れがついた指でスイッチを触ってしまうと、ON/OFFをする度にその汚れが手指を通して室内に広がってしまいますよね。屋外の汚れをシャットアウトするために、スイッチを衛生的に保つ必要が出てきたのです。

衛生面でのニーズに応えるためすでに着手されていた研究・開発は、コロナ禍になり一気に加速。
《抗ウイルス素材》《音声操作》《非接触操作》の3つの方向で検討を始め、使う人が安心感を持つことができ、誰もが使いやすいスイッチにするべく開発チームで議論を深めたそうです。

侯:抗ウイルス素材だと、使う人にとって「本当に清潔かどうか」がわかりにくい上、ライフサイクルの長い配線器具に採用することを考えると、抗ウイルス性の持続性に不安がありました。

また音声操作は、声での操作に抵抗感や恥ずかしさを感じる方も多く、使う際のハードルにもなるため、導入を進めるにはまだ早いと判断。

一方、非接触操作なら、従来の指での操作とあまり変わらない動作で使える上、「触れないから安心」がわかりやすい。非接触操作の方向で開発を進めることになりました。

無意識に何度も使う部位だからこそ、ストレスは大敵!

非接触操作に方向性が定まったと言っても、そこからが開発の正念場でした。

なぜならスイッチは1日に何度も無意識に操作する大切なタッチポイント。操作しづらかったり、暮らしの中でどこか違和感のある存在だったり、といった小さなストレスがあるだけで、人々に受け入れてもらえないというリスクがあったからです。

侯:新しいモノだからこそ、世の中に受け入れてもらうためのハードルは高い。でもそのハードルを超えられれば、人々の安心・安全につながる“ニューノーマル”になり得ると思いました。

だからこそ私はデザイナーとして『人とスイッチの関係性』にフォーカスし、世界中の誰もが感覚的に操作できるやさしさ、空間になじむ主張しないデザインを実現したいと考えたのです。


■ABOUT PRODUCT■

手をかざすだけで、触らずに照明器具をON/OFF
アドバンスシリーズ:非接触スイッチ

コンセプトは、「手をかざすだけなので簡単、触れないので安心」。
手を触れることなく、かざすことでON/OFFの切り替えを可能にした非接触スイッチ。

センサーの検知範囲を限定することで誤動作を低減し、ストレスなく使える設計に。スイッチ操作のレスポンスとしてはっきりとした音と光のインタラクションを持たせ、心地よい操作性を実現した。

誰でも直感的に使える視認性、空間設計のノイズにならない意匠性を両立。従来の配線モジュールをそのまま活用できる高い施工性にもこだわった商品です。


もっとも難航したのが、センシングの精度。

あまり遠い場所の動きを検知しすぎると、誤動作が多くなり無駄なON/OFFの原因に。

逆に近距離のみの検知だと、かなり近づかなければON/OFFが切り替えられないため不便です。

そこで操作性に徹底的にこだわり、「どのくらいの距離で検知するか」の検証を何度も繰り返しました。結果、住宅の廊下やリビングダイニングなど人が近くを往来する場所は検知距離を約5センチ以下の設計に。

さらにロビーなど非住宅の大空間、車椅子の方の使用なども想定し、少し遠めの約10センチ以下の検知距離も設け、2つの検知距離を切り替えられる展開にしたそうです。

侯:検知距離はデザイン部門が中心になって考えましたが、実際に技術部門で具現化するのが本当に大変で……。

例えばモノを運んでいるときなど手が使えないときに肘やモノの動きでも検知させるようにするとか、センサーから5センチ以内でも単に前を行き来するだけでは誤動作が起きないようにするとか。
いろいろなシーンを想定したセンシングの精度検証は、部門を超えて協力し合ったからこそ実現できたと思います。

インジケーターのデザインも、パナソニックのデザイン部門のこだわりが詰まっています。

侯:通常のセンサーは黒い窓の中に赤外線がギラギラと赤く光ります。
マーケットのセルフレジでバーコードを読み取る部分を想像してもらうと近いかもしれません。
でもそんなセンサーがリビングにあったら……なんだかリラックスして過ごせませんよね。

ですから、センサーの大きさを極限まで小さくし、赤外線を出す部分と受ける部分、スイッチの場所を示すLEDインジケーターを一体化。ほのかな乳白色に仕上げることで、空間になじむやわらかなデザインに仕上げています。

また侯は「フィードバックをどう伝えるのかがとても重要」とも語ります。

わずか1秒の操作に対して、「はっきりした音と光のインタラクション」で反応するように設計された非接触スイッチ。
実はもともと「スイッチに近づくとだんだん音が大きくなる」などのパターンも検討していたそうです。
しかし、スイッチの操作はほんの一瞬、無意識にやること。
この一瞬の動作に合わせるためにも、最終的には、シンプルな「ピッ」という音が採用されました。

すべての人にやさしい、バリアフリーの“表現”を。

スイッチはON/OFFを切り替えるだけの非常にシンプルな器具です。
説明書を読まないと使い方がわからないようでは困ります。

そこで非接触スイッチの開発では「誰もがパッとみて直感的に使える」ことにひときわこだわり、ピクトデザインを洗練させたそう。
ポイントは、空間のノイズにならないサイズ感どの国の人でも理解できるデザイン性の2点でした。

侯:ピクトのサイズ感については、スイッチが使われる空間の広さを考える必要があります。非住宅の場合は広い空間が多く、少し離れた場所からも見えるようピクトをある程度大きくする必要があるんです。

一方、住宅で同様のサイズにしてしまうと、ピクトが主張しすぎて日常生活のノイズに。住宅では同じ人が毎日使うため、情報量をできるだけ少なくする必要がありました。

住宅/非住宅の両方でバランスの取れたサイズ感にするため、いろいろなサイズをプリントし、オフィスのいろいろな場所に実際に貼り付けて評価しました。

侯:メッセージ性についても何度も議論を重ねました。
同じデザインのピクトでも、国や文化が違うと誤ったメッセージが伝わってしまうことがあるんです。非接触の操作には、まだみんな慣れてないので、意味をどう伝えるか苦労しましたね。

検討中のピクトデザイン案

侯:検討段階で候補にあがっていたデザイン案の一つに、センサーの上に動いている手のイラストを重ねたものがありました。
しかし「手の動きでセンサーを操作する」のメッセージがうまく伝わらず、海外では「雑巾掛けをしている」「手を振っている」などの違った意味で伝わるケースがあると判明…。
他にも、センサー部分と手のイラストをどのくらい離して描くか、どの位置から見たアングルにするかなど、リリース直前まで粘りました。

デザインチーム全員で納得できるものにしようと、国も部門も超えて幅広い意見を集め、現在のピクトデザインに決定。
「おかげでバイアスのない、みんなにやさしいデザインになった」と侯は話します。

デザインとは、使う人のことを一番に考える「思いやり」の気持ち

デザインを学ぶために来日し、その後プロダクトデザイナーとしてパナソニックに入社した侯。なぜ活躍の場にパナソニックを選んだのかも、聞いてみました!

侯:パナソニックの商品はすべて「使いやすさ」を一番に考えたデザイン。
表現だけのデザインではなく、使う人に寄り添うためのデザインなんです。そんなユニバーサルデザインへの企業姿勢に共感し、入社しました。
ユニバーサルデザインって、SDGsやDEIを実現するために欠かせない考え方だと私は考えています。

最後に、聞いてみました。

――侯さんにとって「デザイン」って何ですか?

侯:そうですね、「思いやり」だと私は思います。
「思いやり」の気持ちを丁寧に具現化していくことで、使いやすい商品が生まれ、心地よい空間が出来上がる。結果的に生活者の理想の生活を実現することにつながると思います。
コロナ禍で日常が大きく変化する今、本当に大切なモノって何だろう?本当に求められていることって何だろう?など“本質”を問うチャンス。
「思いやり」の気持ちで誰もが心豊かに暮らせる社会をデザインを通してつくっていきたいですね。


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