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「背景」としてのデザイン—103年目の革新。

家の中にいくつもあって、あなたも1日に何度も無意識に使っているもの。目立たないけれど、便利で快適な暮らしに欠かせないもの。
――さてさて、これは何のことだと思いますか?

(ヒント:⇩の記事冒頭にも答えが…!?)

・・・わかりましたか?

答えは……「配線器具」
つまり、コンセントや照明スイッチです🔆

私たちの生活に欠かせない配線器具。すでに1970年代ごろには現在の製品の原型となる製品が発売されていて、「長い歴史の中で、あまり姿形や機能は変わっていないのでは?」と思われる方も多いかもしれません。でも実は、配線器具は時代とともに着実に進化し続けているんです。

そんな「実は…」なお話をしてくれるのは、配線器具をはじめ、照明や住宅設備など様々な商品を担当してきたデザインセンターの近藤高宣。
歴史を踏まえ、これからの配線器具の価値とは何か?を考えて開発された「SO-STYLE」について、根掘り葉掘り聞いてみました!

感性価値によるバリューチェーンへの変革

配線器具の歴史は、パナソニックの歴史でもあります。大正時代、家庭にあった電気設備は照明用のソケット1灯のみ。
そのソケットで家電を使えるようにするための接続用プラグとして、パナソニック(当時の松下電気器具製作所)は「アタッチメントプラグ」を開発。製品第1号として製作・販売したのが事業のはじまりでした。

その後、昭和にかけて家電の種類が増え、照明用ソケットと家電用のスイッチが切り離されることに。1959年ごろまでにはコンセントや入切スイッチの原型が確立されました。

そして電気工事の標準化、モノ作りのシステム化などが進み、成熟市場の感もあった配線器具の世界。しかし近藤にとっては、そうではありませんでした。「次にパナソニックができることは何だろう?とずっと考えてきました」――近藤がたどり着いたのは「感性価値によるバリューチェーン創出」でした。

デザインセンター 近藤高宣氏

近藤:配線器具は施工価値・機能価値が中心で、一般のお客さまもパナソニックの配線器具だから、とりあえず安心っていうところがあります。これは本当にすごいことで、100年に渡る先人の蓄積であり、社会インフラの一部になっているということですよね。
一方で、設計者や建築家といったお客さまは、住宅であれば生活者(そこで生活する人)、非住宅であれば使用者(その場所を訪れた人)がいちばん心地よく過ごせるよう空間設計を日々考えられています。
彼らが求めるのは、施工価値・機能価値といった基本機能をしっかり満たしたうえでの「感性価値」。いままで積み上げられてきた施工価値・機能価値のノウハウに加え、デザインによる感性価値の創出が、私の立場からできることではないかと考えました。

とはいえ通常、デザイン業務は企画・設計の後から「デザインを付ける」ことがほとんど……。そこで近藤は、社内の商品開発プロセスの「バリュー」チェーン化に挑戦することを決意。

近藤:従来のデザイン業務は、サプライチェーン上での工数としてのデザインであって、そこからは空間設計者や建築家が潜在的に欲している商品は生み出しにくいと思ったんです。
とはいえ感性価値からの商品企画って、機能とかスペックのような数値評価でロジカルに判断ができないので、企画がまず通らない(笑)……。でも、潜在的なお客さまのニーズは感じていたので、それをしっかり可視化して、どうやって社内に広めていくかがすごく重要だと考えました。

BEFORE:サプライチェーンの一部 として、プロダクトデザインを担う

近藤:そのために、デザインをベースに企画・設計・営業・宣伝にトータルで積極関与しようとしたのですが、過去のさまざまな経緯、部署間のしがらみで難航……。
もうこれは、商品を選んでいただくお客さまと対話し、共感を積み上げていくしかない!と、オフィスを飛び出して空間設計事務所ヒアリングをやっていきました。

AFTER:プロダクトデザインを武器に、 バリューチェーン を創る

近藤「押しかけデザイン企画」(写真左下)では、試作品を設計者に見てもらい、ニーズを深堀りしてデザイン・企画仕様をブラッシュアップ。企画・マーケティング部門と一緒にお客さんと数多く対話することで、こだわるべきポイントを明確にしていきました。
「押しかけデザインプロモーション」(写真右下)では、まだ商品企画の段階から仮想カタログを作成し、お客さまに共感を得るプロモーションの方向性を探りました。
このような活動でプロダクトデザインを磨き上げつつ、企画・プロモーションという「バリュー」の両端から働きかけていくことで、徐々に社内でも仲間が増えていきました。

左:押しかけデザイン企画 / 右:押しかけデザインプロモーションで使用された仮説カタログ

「背景としてのデザイン」

バリューチェーン構築・感性価値創出のプロセスを通して、はっきりと見えてきた新商品のコンセプト――それは「背景としてのデザイン」でした。

近藤:主役はあくまで生活者や使用者であり、空間はそれを快適にするための舞台です。配線器具はそこに存在し、一日の中で一瞬、無意識に使われるもの。だからこそ、設計者・建築家がつくる空間に、「背景」として美しく心地よく馴染むデザインであるべきだと考えたんです。
デザインと聞くといかにそのもの自体を美しく見せるか、を考えてしまいがちですが、配線器具は壁面に設置されるものなので、「Less is More」(*)。周囲のさまざまな空間デザインに対応できるシンプルで普遍的な美しさを追求したいと思いました。

*「少ないほうが、豊かである」を意味する、建築家のミース・ファン・デル・ローエの言葉。シンプルなデザインを追求することで、より美しく豊かな空間が生まれるという建築家としての考えを表現している。

近藤:個人的には『こだわって焚き上げられた白ごはん』みたいなイメージかなぁ(笑)。和・洋・中、どんな食材にも合う、でも白ごはんだけでもすごくおいしい……そんな感じです。

デザインという感性価値から、バリューチェーンを生み出そうとした近藤さんの思いと行動は各部門に共感を生み、2020年1月「SO-STYLE」として発売されることになったのです。


■ABOUT PRODUCT■

上質な空間の「背景」となる
デザインと質感にこだわった配線器具

ソー・スタイル

そこに住まう人、そこで営まれる暮らし、そこに流れる時間。空間に美しく心地よく馴染む「背景」になることをコンセプトにデザインされた「SO-STYLE」。住宅だけでなく、ホテルや美術館・病院など非住宅での使用シーンも想定し、多様な空間ニーズに応えられるモジュール設計、形状・色・表面加工にこだわったディテール、入切の切替音や触感の心地よさを叶えるインターフェイスなどにより、新しい配線器具の価値を創造している。

ここで小話をひとつ。この「SO-STYLE」のロゴ、ひと文字の縦横比率が配線器具の「120×70mm」のバランスでデザインされてるんですって……!


モジュール・ディテール・インターフェイス

「背景」としてのデザインを叶えるために、近藤さんが注目したのは「モジュール」「ディテール」「インターフェイス」の3つの観点です。とくに注目すべきポイントについてお聞きしました。

近藤:一つひとつのこだわりを挙げるとキリがないかもしれませんが……、とにかく「背景」になるためにあらゆる側面から、新しい意匠・機能を追求しました。
「モジュール」では、どのような空間でも美しく、便利に使用できるさまざまなサイズバリエーションを用意。他のコントローラと並んで設置されたときの美しさにも配慮し、高さ120mmを基本とした様々なラインアップを用意しました。
また「ディテール」では、壁面からプレート部を少し浮かせた“出代”、樹脂で表現できる限界の白・黒を追求した色、コンセント・差込穴やプレート表面の光の反射を抑える表面加工、角Rや隙間の統一など、細部にまでこだわりました。
「インターフェイス」では、寝室やホテル、美術館や病院での使用も想定した静かな操作音や、押した際に心地よいレスポンスになるよう何度も試行錯誤を繰り返しました。

●多様な空間ニーズにフィットするモジュール設計

シンプルかつフラットなデザインでモジュールを統一。
設計者・建築家の空間設計時に使いやすいラインアップ。

●テクスチャーのある壁にも馴染む“出代”の工夫

出代を設けて壁から少し浮かせたデザインに。
クロス仕上げの壁だけでなく、塗り壁や珪藻土などテクスチャーのある壁にも美しく収まる。

●樹脂の限界に挑戦した白と黒

樹脂で表現できる限界を追求し実現した純白と純黒。
さまざまな色が存在する空間とのコーディネートを考え、
もっとも明るい色・暗い色の2色を先行発売した。

●背景になるために形状・素材・仕上げを見直したコンセント差込穴

1970年ごろから全製品に展開されてきた従来の差込穴の形状・素材は、安全性の観点から不可侵領域とされてきた。しかし差込穴周辺の凹みに光が反射し空間デザインのノイズになる可能性があるため、シンプルな形状を何度も検証し、安全性をクリアした上でデザイン性を高めた。

●直観的に押すところが分かるスイッチ形状

ユーザーが一日の中で配線器具を使うのはほんの一瞬、しかも無意識。
だからこそ、直観的にON/OFFできるスイッチを追求した。片側が跳ね上がり、文字などなくても押す場所が分かる。板バネ構造を中に入れることで、静かな切替音とソフトでありながら押した感触がきちんと感じられるように。

●暗闇でもノイズにならず、存在を知らせる「ほたるスイッチ」

消灯時にスイッチ位置を知らせるために点灯する「ほたるスイッチ」。
寝室やホテルなどでの使用シーンも想定し、暗闇の中でまぶしすぎず、それでいて存在感を静かに伝えられるよう最適なドット形状、光量を模索した。

デザインとは、新たな定番を探すこと

デザイナー自身が行動し、新たなプロセスによって価値を作り出した「SO-STYLE」。開発・製造のプロセスはこれまで私たちパナソニックが蓄積してきた技術や設計思想との兼ね合いもあり、苦労も多かったとか。

近藤:歴史があるだけに、これまで社内で“当たり前”とされてきたものを変えるのって、なかなか難しい。幹部と現場の意見の食い違いなどもあり大変でした。でも、個々の企画・開発・営業・宣伝のメンバーはもともと優秀な人ばかり。デザインの想いに、彼らが共感してくれたから乗り越えられました。
そして、社外には想いに触れてファンになってくれたお客さまが多くいらっしゃって……空間設計者の方が「SO-STYLE」を採用いただいた後、SNSで『おススメの配線器具です!』『お施主さんが気に入ってくれた!』と発信してくださったり。市場の反響が本当に大きく、うれしいですよね。
バリューチェーンが回っていく様子を肌で感じることができました。グッドデザイン賞受賞も市場認知に貢献したと思います。

最後に、聞いてみました。

ーー近藤さんにとっての「デザイン」って何ですか?

近藤:うーん……新しい“定番”を作る想い、ですかね。生み出したものが使い手の新しい日常に寄り添い、そこで過ごす時間を豊かに変えていくものであったら良いなと思います。


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